第5話 隆夫

 店とは別の郊外の貸し倉庫が並んだ人気のない、場所へ向かう。貸倉庫のトレーラーを模した、監禁部屋だ。トレーラーの中に細い廊下と、狭い部屋が三つほど並んでいる。扉の一つに声をかける。

「隆夫さん」

返事がない。昨日まではかすかに動く気配があったのだが。声に反応して、中にいたウサギが扉の方へ、のそのそと移動してくる音がした。鍵を開けて隆夫のそばまでいくが、うつぶせになったまま反応がない。靴先でそっとひっくり返してみる。開いたままの瞳は何も映していない。ペンライトで瞳孔反応を確かめる。瞳孔が散大し反応がない。片手で電話をかけながら、隆夫の瞼を閉じる。

「牛田君、隆夫さんの後始末をお願い」


寄ってきた瑠奈を抱き上げ、地下室を後にする。マスクを取って、ビロードのような茶色い瑠奈の毛を、そっと撫でる。瑠奈は耳をぺったり後ろにつけ気持ち良さそうにしている。撫でているとその吸い付くような手触りにだんだんうっとりしてくる。

「三上さん! マスク!」

ハッとしてマスクをする。笠井に注意されていなければ、危ないところだった。

「マスクと手袋は外しては駄目ですよ。普通のウサギではないんですから」

「有難う……」


 ウサギの体をよく拭き、空いていたケージに戻す。瀬奈と瑠奈の名札はしばらく裏返しだ。二匹は一仕事終えたので、明日にでも、次の仕事まで空気の良いところに連れていってお休みさせる。ウサギたちが晴れた青空の下、クローバーをむしゃむしゃ咀嚼している光景が目に浮かぶようだ。そろそろ、私たちも休暇が欲しいところだ。休暇が待ち遠しい。


 一週間後、薬物中毒で東京湾に流れ着いた身元不明の死体があった、とオンラインニュースに載っていた。

 メールをチェックすると、3件メールが入っておりクライアントから、今日付で振込みをするとの連絡が入っていた。


 これでやっと休暇が取れる。心愛のスケジュールは確認済みだ。海外での映画のロケを行っているため、来月までは来店出来ない。他の顧客は、まだ初期段階で、笠井に任せておくことが出来る。

休暇に入ったらすぐに、すでに休暇に入っているウサギに仔が産まれたと聞いているので、見に行かなくては。どの仔が、モフモフパラダイスに向いているのか下見をしに。


---------------------------------------------------------------------------------------------------------

お読み頂き、有難うございました!

感想などいただけると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モフモフパラダイス 明夜 想 @emiru-aozora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ