婚約破棄された悪役令嬢の無罪を証明できるのは名探偵の俺だけ!〜真犯人が「殺戮オランウータン」だった件〜

アウ田

第1話

「エリザベス嬢!あなたを第3王子殺害の容疑者として拘束させてもらう!」

とある夜会で事件が起こった。

第3王子による婚約破棄、そして聖女と新たに婚約を結ぶと突然の宣言、場は大いに混乱し一時的な休息として関係者にそれぞれ話を聞いていた時、王子の番になり部屋に入ると王子は凄惨な方法で殺されていたのである。

「あの短期間で犯行に及ぶことが出来るのは風魔法の使い手として名を馳せているエリザベス孃ただ一人だ!」

元婚約者だったエリザベス侯爵令嬢に騎士が迫る…エリザベス孃は悲し気に俯いて拘束を受け入れるように静かに佇んでいた。

唐突だが俺は転生者だ。

よくあるトラック転生でこの世界に新たに生まれる際にとあるチートを神から授かっている。

『事件の真犯人と動機がわかる目』

このチートを使い数々の事件を解決してきた俺は彼女の冤罪を知っている…知っているんだけど……これは……。

『真犯人:殺戮オランウータン』

『動機:○△8527jmxu□』

「えぇ……?」

思わず困惑の声を上げてしまった。いやこれなんだよ。

「…なんだお前なにか不服があるのか!」

困惑の声は結構大きかったようで会場中の注目を浴びてしまった。

「あ、いや、これはその…なんというか」

「おや、もしかしてあなたはあの東西南北中央探偵カイニス様では!?」

「カイニスだって!?大賢者にすら彼に解けない事件は無いと言わしめたあの!?」

「カイニス様ならエリザベスの犯行もきっと推理してしまうぜ!」


「いや、彼女は犯人では無いんだが…」


会場に衝撃が走った。

「な、なんだと…では誰が犯人だと言うんだ!?」

「そ、それは、まだわからんが彼女が犯人では無いことだけはわかる、あっ!現場!現場を見せてくれ!」

やっべぇこれ後に引けなくなったわ!なんとか…なんとかしないと!

「ここが事件のあった部屋ですか…」

一言で言って凄惨。

王子の体は粉々に千切られ部屋中に撒かれていた。

「こんな犯行は魔法を使う以外にはできない……」

いや、オランウータンが力まかせに引き千切ったっぽいんだけど。

「その…風魔法って事はウイングカッターなどだろう?それにしては死体の損傷が激しすぎではないか?」

「風魔法によって起こされた竜巻の中に石や砂利を入れて破壊力を上げる方法があるのです、王子の持っていた装飾品がいくつか無くなっておりきっと犯行に使われたのです!」

エリザベス孃を犯人だと疑う理由はちゃんとあるのか…。オランウータンが力まかせに犯行に及んだだけなんだよなぁ…。

「王子に最後にあっていたのは?」

「新しく婚約の発表があった聖女様です、その後数分誰ともあっておりません」

「聖女様は風魔法は…」

「聖女様を疑うのですか!とんでもない!」

「聖女様は毛深くて腕が長いとか…」

「さっきから不敬が過ぎますよ!」

聖女様はオランウータンではないようだ。当然だよ。

「念の為に聞くが王宮のセキュリティは?外部の魔物の可能性などは?」

「王宮は魔物を弾く結界に覆われております!魔物による犯行は不可能です!」

動物は入れたって事なのか、厄介すぎる。

「無くなっていた装飾品の詳細が知りたい…ありがとう、次は聖女様にも話を聞きたい」

「聖女様は現在話を聞ける様な状態では御座いませんお引取りを」

部屋の前に居た神官に止められてしまった。

「いや、そうは言ってもだね」

「第一、犯行は候爵令嬢の仕業と決まっているのです疑う余地すらない」

「それはなぜ?」

「…実は婚約破棄は前々から決まっていたのですがあちらは破棄させまいとあの手この手を使って引き伸ばし業を煮やした王子が今日決着をつけたのです」

「つまり恥をかかされた事への報復だと」

「ええ、向こうは婚約破棄されないとたかを括っていたのに破棄されたとなると家柄を軽く見積もられたと貴族なら受け取るでしょう、動機になってもおかしくはない」

「ありがとう、次は候爵令嬢だ」

「私は王子を殺しておりません」

「わかる」

「えっ」

いかん、ノータイムで返してしまったせいで胡乱げに見られている。

「細かい事は言えませんがあなたが犯人では無い事はわかるのです、事件解決の為にご協力を」

「あっ、はい」

「風魔法はどの程度扱えるのですか?」

「小さい魔法から大きい魔法まで、場所問わずにあらゆる魔法が使えると自他共に評価しております」

うーん、そりゃ疑うよな……。

「この装飾品の事は知っていますか?」

「いえ、わかりません」

「王子が身につけていたが事件後に行方不明になっているものです」

「王子が…?」

「なにか気になる所が?」

「庶民が普段身に付けているような安価な商品です、本当に王子がこれを…?」

「……つまり手に入れやすいと言うことは手放すのも簡単だったりしますか?」

「はい、質屋などに持っていけばそれなりの値段で引き取られるでしょう」

「……なるほど、最後にオランウータンってご存知ですか?」

「えっオラ…なんですか?」

知らないか…オランウータンはこの世界では一般常識では無いようだ…マジで説明が面倒だな!

「あの…婚約破棄の事についてはよろしいのですか?」

「あっ」

忘れてたわ、いやオランウータンと婚約破棄全然関係ないから聞かなくても良いんだよ。

「別に関係は無いので」

「本当に、私の無罪を信じているのですね。婚約破棄され嫉妬に駆られた犯行だとはつゆとも思っていない……元々この婚約は政略で結ばれたものでいつでもお互いに破棄できるものだったのです、王子ともその前提の関係でしたからあまり彼の事は知らなかったので、なぜ今日破棄をしたのかもわからないのです」

ん?王子のことはどうでも良かったのか…?だったらあれは…。

「私はあなたの事はよく知りませんが、一目見てあなたがそんな人物では無いと確証が持てますからね、ちゃっちゃと無罪を証明してお茶でもしましょう」

犯人オランウータンだしなぁ。

「えっ、そ、それはつまり私のことをもっと知りたいと言うことですか!?」

「?ええ、まあ」

なんか俯いて大胆すぎるとかまずはお友達からとかブツブツ言い始めてしまった…。

「いやマジでわかんねぇ…」

こう…今までのは犯人と動機がわかれば後は方法推理すれば解決する簡単な事件ばっかだったけど犯人オランウータンで動機不明のこの事件をどう解決すればいいんだ…。

「カイニスさま、そろそろ推理を聞かせてもらえますかな!」

やっば…待たせてしまって不審がられたわ…、挽回していかないと。

「まず、はっきりとさせなくてはいけないのがこの事件は突発的に起こり、動機は特に無いという事です」

うん、無理だ!解決しない方向で行こう。

俺の発言に会場がざわめく。

「動機はあるではないですか!候爵令嬢の嫉妬です!」

「婚約は破棄前提の物でした、それに怒るのはありえない」

候爵令嬢とその関係者たちが頷くのを見た会場の皆は言葉を失った。

「では…犯人は一体…?」

「犯人は例えば野生動物が目の前の獲物を理由も無く殺すような感覚で王子を殺して逃走したのです、それに推理も何もない」

「そ、それでは事件は解決しないぞ!」

「ええ、ですから2つ目の事件の話をしましょう」

そう、今夜起きた事件は殺人事件だけではない。殺戮オランウータンに気を取られすぎたわ。

「王子の装飾品が紛失している件です、犯行が計画的で凶器を持ち去ったという推理が崩れた以上この件を整理し直さなければいけない」

『真犯人:聖女』

「聖女様に改めてお会いしたいのです」

今日一番のざわめきが会場中で発生した。

「せ、聖女様を疑うのですか!」

聖女の部屋の前に居た神官が食って掛かってきた。

「聖女様は清貧を良しとするお方です!ましてや王子から盗ったと疑うなど!」

「いいえ、聖女様は装飾品を盗んでおりません、装飾品は庶民の間で流行している安価な物でした、清貧を良しとする聖女様へのプレゼント品としては適格のものなのでは?」

つまり王子からの聖女様へのプレゼントである…なぜその装飾品だったのか。

『動機:換金して夕飯を買う為』

「聖女様は清貧を良しとする、という名目で劣悪な環境に置かれて居るのでは無いのですか」

その日のご飯に困るぐらいには。

「そ、そんなこと…!」

「聖女様の健康診断をすればそれで終わる話です、さあ聖女様にお目通しを」

「そ、そ、それは…」

「もうよい」

その時、閉まっていた会場の扉が開けられ陛下と不健康そうな少女と騎士が入ってきた。

「国王陛下と聖女様だわ」

会場中がとっさに礼をするのを陛下が片手で制する。

「そなたの推理、見事であった。まさしく聖女は長らく教会の腐敗により劣悪な環境に身をおいており、それを助け出すために第3王子が動いておったのだ。

婚約はその隠れ蓑として結ばれたもの、両家とも聖女救出を命題にしていた」

教会の奥に監禁されていた聖女を引っ張り出す為に婚約破棄という茶番が計画され教会はそれに乗ってしまっただけのようだ。

「教会本部にはすでに騎士を派遣している、キサマ達の罪はすべて暴かれるであろう」

「そ、そんな…」

へなへなと崩れ落ちた神官が騎士によって連行されて行った。

「よし、一件落着だな!」

「待てい」

勢いで締めて帰ろうとしたきっちり陛下に呼び止められました。つら。

「そちの推理、わしには最初からすべてわかった上で行って居たとしか考えられんのじゃ、頼む王子を殺した犯人を教えてくれ…」

ま、マジで…?気がついたら会場中の視線が集まっていた言っても解決しないじゃん!なんの公開処刑なの!

「し、真犯人は…オランウータンです…」

「……わしのペットじゃぁ……」

「えぇ…」

解決した。

「いやぁー!父上の悪癖も困りものだよなぁ!」

ガハハと笑うのは件の第3王子。

この世界、蘇生魔法があるので大抵の事件は被害者本人に聞けば解決するのだ。

そんな世界で推理ショーは新鮮だったらしくあっちこっちに引っ張りだこになっていた。

「部屋で一服していたらな!ドアから堂々とオランウータンが入ってきおってな!抵抗しようとしたんだがまず首をコキッとされてしまってな!」

「死因の解説は聞きたくないです!」

「そうか!」

この王子、滅茶苦茶フレンドリーだな!

「死ぬ時はせっかくの聖女救出のチャンスがだめにしてしまったと後悔していたが蘇ってみれば全部解決していたし聖女様は無事救出されていたし!告白も成功したし!」

そもそも第3王子が聖女救出に動いていたのは幼少期にお忍びで市街を回っていたときに教会から忍び出ていた聖女にあって一目惚れしたからとか聖女も一目惚れして両思いでしたとかもう5回は聞いてる。

「お前も成功するといいな!」

ん?

手渡されたなんだこれ…お見合い写真には候爵令嬢が写っており、お茶だけのつもりがいつの間にかかなりの大事になっているのに気づくのはチートを使っても後々になるのだった。

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婚約破棄された悪役令嬢の無罪を証明できるのは名探偵の俺だけ!〜真犯人が「殺戮オランウータン」だった件〜 アウ田 @autra

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