第4話

「おみみ、かきかきしてもいいかなぁ?」


「っはい…」


「じゃあやっていくね」


後頭部を柔く掴み、指先でつんつん、これから触れる場所の確認。


かり…かり…


耳の淵を優しくなぞったあと、奥の本命部分へと侵入してくる。


ざり、ざり…ざり、ざり…


指でも触れるくらいの浅瀬をゆっくり、丁寧にかいていく。


「どこか痒いところはない?」


配信みたいなエコーを生かした声じゃない。上から静かに降ってくるこの感じは、背中のゾクゾクは感じられないけれど、なんだか安心する。


「ないでふ…」


「ふふっ、おねむかな?どうせ昨日遅くまで起きてたんでしょ」


あなたの配信を見ていたんですよ。そんなことも知らない様子で、クフクフと嬉しそうに笑う。


「よし、そろそろお耳の汚れ、とっていこうね」


「っ、」


距離が近くなったのだろうか、ぬるい息が耳元にあたる。


かり、かり、かり、かり…


ゴリィッ、


「っぁ!!」


「ごめん、痛かった!?」


「いえ…」


脳天に直撃しそうな快感に、思わずつま先がピンと張る。


「きもちいい、だけ…」


「本当?よかったぁ…でもあんまりやりすぎるとよくないから、これでおしまいね?」


「はい…」


名残惜しい。一生やっていてほしい。


「でもね、もう一個のお耳あるからね。最後のふわふわぁー」


 なぜだろう。自分でやった時とは大違い。奥を突かれて案外疲れていたであろう耳が、柔らかいものに包まれて、癒される。


「ふぁふぁ〜、ふぁふぁ〜…」


奥で聞こえる、今にも溶けそうな彼女の声が相乗効果を成しているのもあるのだろう。


 正直あの白いポンポンは飾りだと思っていた。一昔前のjkのケータイに付いている馬鹿デカいマスコット程度の。でも、もうそんなことは言えない。梵天先輩と呼ばせて頂こう。


「じゃあ反対やろっか」


髪の毛と耳をひと撫でした後、彼女の膝の代わりにクッションが挟まれ、前に現れる。


「ごろーんってできる?」


「じょうずじょうず〜」


言われたまま、反対側に体を捻るだけで、頭を撫でられて、褒めてくれる。


ばぶぅ。


クッションよりもフカフカの彼女の太ももに置き換えられ、反対側の耳に移行しようとした時、由々しき事態が発生する。


(眠い…)


 そう、いつもは邪な感情で見ている配信だが、本来は睡眠導入なのである。実際に触れられる、熱をもった施術。いつもの昼寝の時間であるということも相まって、瞼の重力が逆らえないものになってきている。チラリと股間を見ると、その膨らみは収まっている。眠いと本能で勃起するという情報はデマなのだろうか。


「ふふっ、ねむねむになってきちゃった?」


穏やかな声、温かい耳、脳に優しく響く振動。もっと噛み締めていたいのに、いつのまにか俺は、夢の中へとまどろんでいった。




「…ーい、おーい、」


背中を軽く叩かれて、目が覚める。


「んぁ、俺、寝てました…?」


「ぐっすりでした」


「あっ、よだれ、すんません!!」


彼女の膝の上にはべっとりと俺のものでへばりついている。


「大丈夫ですよ。中々起きなくて起こそうか迷っちゃいました」


よかった、怒ってない。ピンクの小さなタオルを渡してくれて、それで恐る恐る自分の頬を拭く。時間を見ると1時間を超えている。でも、片耳はおよそ15分。30分以上正座させていたことになる。


「マジですんません!足、痺れてないっすか!?」


「平気です。こちらこそ付き合ってもらってありがとうございます…お茶、飲みますか?」


「あ、はい、」


この人、とんでもなくいい人ではないか。いい人超えて聖人だ。ドギマギしながら上体を起こす。


「っ!!!!」


「じゃあテーブルに移動しましょう。どうしたんですか…?」


ぴきりとある部分が張っている感覚。恐る恐る下を見ると、見事なバナナを形成している。


「い、いえ…」


体を急いで丸め、手でソコを隠す。朝立ちならぬ、昼立ちだ。


「どこか具合が悪くなっちゃいました?」


正面の彼女の心配そうな顔に胸が痛む。


「いえ、ちょっとお腹が…」


「とりあえず横になりましょうか」


やめてくれ、その背中のさすりは今は逆効果だ。


「クッション挟むと楽になり…あれ、何だろこれ…」


俺の腹部にクッションを差し込む彼女の手が俺のモノに触れる。


「あ…ぁんっ、」


間抜けな喘ぎ声で、理解したのだろう。みるみる顔が真っ赤になる。しかし、びっくりしすぎたのか、フリーズして固まってしまう。


「アッ、ぁ、アンッ、」


カタカタと揺れる指先が鬼頭にあたって、止まらない喘ぎ声。どちらも硬直状態。


「っひ、だめだめなおちんちんですっ!!」


その拮抗を破ったのは彼女だった。錯乱状態の彼女はあろうことか、俺の息子をペチペチと叩き始めたのだ。

「アッッッ、ァン、ッヒィ、」


でもそれが刺激にならないわけがない。漏れてしまう声。


「えっちなおちんちんはっ、おしおきしないとっ、」


ペチンッ!!!


「アッッッ‼︎…あー…」


まるで水風船の中身のごとく、それが溢れる。あったかい感触は彼女にも伝わっているだろう。彼女は口を半開きにして、放心している。


「す、すみませんでしたあああああ!!」


 土下座した。




 ちなみに地下アイドルとのコラボ動画は、地下アイドルガチ勢と、一部の百合豚の中でひっそりと喜ばれていた。「ふわりの癒し屋チャンネル」からの投稿は無く、あまり登録者数に変動はなかったという。

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隣の席の女子が有名asmr配信者ってことを知ってしまい、それを伝えると実験台にさせてくれと頼んできた @yuyuyunoyuurei

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