第六章 二話 「奇跡の再会」

「会って欲しい人が居るの」


 空港から出るタクシーの中で幸哉の隣に座った優佳が言った。既に涙も消えた色の白い恋人の顔に明朗な笑顔が浮かんでいるのを見て、幸哉は安心しつつ、これから誰に会いに行くのか聞いたが、優佳は答えなかった。


「それは会ってからのお楽しみだよ」


 そう言って、自分の手を握った優佳の温もりに少なからぬ命を奪ってしまった自分がこんな幸せを感じていいのかと幸哉は罪悪感さえ抱いていた。


 久しく引き離されていた恋人達を乗せた一台のタクシーは郊外の空港から都内へと向かって走ったのだった。





「絶対に目を開けちゃ駄目だからね」


 タクシーを降りる直前、優佳は幸哉にそう言って、瞼を閉じさせると、恋人の手を引っ張ってタクシーの外へと出た。


 久しぶりに吸う空気の香り、団欒する人々の声、懐かしい平和な日々の記憶……。優佳に手を引っ張られて歩く幸哉は恋人に言われた通り、目を閉じたままだったが、それでもその場所がどこであるかすぐに分かった。


(あの公園だ……)


 病弱な母を連れてよくやって来た場所、そして夢の中で母と再び出会ったあの場所……。


 そんな過去と夢の中の優しい時間に思いを馳せていた幸哉は暫く歩いたところで優佳に足を止めるように言われた。


「もう開けて良いよ」


 そう言った優しい声に幸哉が閉じていた両目を開けると、彼の視線の先には母が好きだった銀杏の大木が悠然と立っていた。


 まだ紅葉の季節では無かったが、緑の葉を生い茂らせる大樹の前では幸哉が出国前に優佳と約束を交わしたベンチがあり、そこに一人の男性が座っているのに幸哉は気がついた。


「もしかして……」


 そう呟いた幸哉の声に振り返った人影はその顔に満面の笑みを浮かべていた。


(そんな……、そんなはずはない……!)


 記憶の中を辿り、もう会えるはずは無かった大切な人が再び目の前に現れたことで言葉を失っている幸哉に、振り返った男は笑いながら声をかけた。


「何だよ、俺のこと忘れちまったのかよ」


 額には以前は無かった傷の跡がついているその男の顔が旧友のもので間違いないと声を聞いて実感した幸哉はその名前を叫びながら駆け寄った。


「健二か……!」


「おかえり、幸哉!」


 目の前まで走っていって、近くで確認し、間違いなくそこに立っているのが親友であることを確かめた幸哉は健二の体に抱きついたのだった。


「ごめん、俺のせいで……。良かった……」


 生きていないと思っていた、自分が巻き込んで死なせてしまったと思っていた親友の確かな感触に幸哉は涙を流した。


 そんな青年の肩を擦りながら、健二は、「おい、ちょっと待て!男に抱きつかれても少しも嬉しくねぇよ!」と照れ笑いを浮かべるのであった。


 全ては夏の日の静かな公園で起きた出来事だった。

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