第四章 二十二話 「仲間との合流」
「東十三番の塹壕がやられた!防御網に穴が空くぞ!」
「敵戦車正面、距離五十メートル!無反動砲の援護を早く頼む!」
迫撃砲弾が雨あられと降り注ぎ、銃声の応酬が飛び交う中、右手には五六式自動小銃、左手にはロケットランチャーの発射器を持って塹壕の中を疾走する幸哉の脳裏には無線から聞こえた、助けを求める仲間の声が響いていた。
頭上を飛び交う機銃弾に首をもぎ取られないよう腰を屈め、砲弾の巻き上げた土泥のシャワーの中を汗と泥に塗れながら走った幸哉は何とか敵の突撃を食い止めるている正面防衛線の後ろを通過すると、そのまま仲間が応援を求める東側防衛線へと疾走した。
(遅かったか……!)
走り出して数分、東側防衛線の様子が見えてきた瞬間、幸哉は内心に悪態をついた。彼の目の前に広がる防衛線はあちこちから爆発の炎と黒煙を立ち上らせており、さながら要塞陥落といった様子で突撃した敵と防衛する味方が入り乱れて、超近接戦闘を展開していた。
「えぁーッ!」
塹壕の中を走ってきた幸哉のもとにも絶叫とともに一人の政府軍兵士が銃剣突撃をかけてきた。
数メートル離れたその姿が目に入ると同時に左手のランチャーを捨てた幸哉は両手で握り直した五六式自動小銃を構えた。その銃身の先端には折り畳み式の銃剣が着剣されており、鋭い刃を光らせていた。
(そっちが銃剣で来るなら、こっちも……!)
塹壕の中に飛び込んできて突撃してきた政府軍兵士の銃剣を、構えた五六式自動小銃のハンドガードで弾いた幸哉は隙ができた敵兵の懐にそのまま銃剣を突き刺した。
「ぐぇっ!」
腹に銃剣が突き刺さった政府軍兵士が血反吐を吐くとともに倒れるその後ろから更に別の政府軍兵士、二人が突撃してくる。その片方は既に幸哉に対して、自動小銃のベクターR4を構えていた。
(まずい……!)
銃剣を抜いて小銃を構える時間は無く、倒れた敵兵の腸に垂直に突き刺さった自動小銃を手放した幸哉は腰のホルスターに手を伸ばすと、身を屈めて回避姿勢を取った。
その瞬間、政府軍兵士のベクターR4が火を吹き、放たれた五.五六ミリNATO弾が幸哉の頭上を擦過した。
次の刹那、今度は幸哉が構えたシリーズ70が相次いでマズルフラッシュの閃光を放ち、撃ち出された.四五ACP弾が二人の政府軍兵士の急所を次々に撃ち抜いたのであった。
(防衛線は……!)
既に息絶えている足元の兵士の腸から五六式自動小銃を引き抜いた幸哉は周囲の状況を確認しようとした。その瞬間だった。
「伏せろ!幸哉!」
そう叫びながら彼の元に要塞の斜面を下って走ってきたのは同じ部隊のオルソジだった。久しぶりに見た顔に幸哉は安堵の念を抱きかけたが、走ってくるオルソジの後ろ十数メートルに機銃付きのジープが停車して、こちらにFN MAG汎用機関銃の銃口を向けているのを見て凍りついた。
「伏せろ!」
塹壕にジャンプするように飛び込んだオルソジに続き、幸哉も塹壕の土溝に伏せた瞬間、猛烈な機銃掃射の嵐が二人の隠れる塹壕の周囲を襲った。
「くそ……、好き勝手やりやがって!」
狭い塹壕の中で幸哉と向き合って、うつ伏せに伏せたオルソジが悪態をつきながら、震える手でコルトM79に破砕グレネード弾を装填する。
機銃弾が掘り起こした土の塊が頭上から大量に溢れ落ちてくる中、敵の機銃掃射が止んだ一瞬の隙に幸哉とオルソジは顔を見合わせて、塹壕の中から顔と銃だけを出した。
「射手無力化!」
距離は二十メートルほど離れた斜面の上方、弾切れになった機関銃に新たな弾帯を装填しようとしていた機銃手とジープの運転手を連続して無力化した幸哉は叫んだ。
「これでも喰らいやがれ!」
刹那の後、そう叫んだオルソジがコルトM79の引き金を引き、軽く爆ぜるような発砲音とともに撃ち出された四十ミリ・グレネード弾がジープの車体に向かって飛翔していく。
「やった!」
グレネード弾が命中し、火柱を上げ、爆散したジープの最期を確認したオルソジは歓喜の声を上げると、幸哉の方を向いて叫んだ。
「そっちは陥落しかけだ!こっちに逃げるんだ!」
そう言って幸哉の腕を引っ張ろうとしたオルソジだったが、幸哉は戦友の言葉に従わなかった。
「まだだ……、まだ戦える……!」
そう言って地面に捨てていた六九式ロケットランチャーを手に取った幸哉の顔を見つめて、オルソジは暫くの間、呆然とした表情をしていたが、間近に弾けた砲弾の爆声に意識を引き戻させられると、幸哉の耳元で叫んだ。
「分かった!僕が援護する!」
普段は臆病だが、いざという時は頼りとなるモツ族の兵士に、「ありがとう!」と頷き返した幸哉は合流した仲間を連れて再び東側の防衛線へと走り出したのであった。
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