第四章 十九話 「任務に対する抗議」

 多数の戦車、装甲車、数え切れない歩兵に加えて四機のCOIN機も投入してきた敵の未だかつてない猛攻に幸哉がバンカーの銃座に取り付いたまま立ち尽くしていた時だった。


「幸哉!ここに居たか!」


 背後からかけられた声に幸哉が恐怖と戦慄で硬直した体を何とか振り向かせると、バンカーの入り口から狗井が顔を出していた。要塞に赴任して以来、最大級の危機は彼も確認しているらしく、焦燥した表情の狗井の後ろからは彼の部下らしい三人の兵士がバンカーの中に入ってきた。


「ここはこいつらに任せろ!お前は俺と一緒に来い!」


 何故、持ち場のバンカーを離れる命令が下されたのか幸哉には分からなかったが、差し迫った危機の恐怖は彼を特例の命令に従わせるには十分なほど強力だった。


「ここはお願いします!」


 自分の後を継いで機銃の銃座についた兵士にそう言い残した幸哉は、「来い!」と叫んだ狗井の後に続いてバンカーから飛び出したのだった。





「くそ!奴ら全土で二十両も無い戦車を十両も投入してきやがった!」


 悪態をつく狗井の後に続いて、先程までの重迫撃砲による砲撃の跡が生々しく残る地上に出た幸哉は自分に負傷者の手当てをする命令が下されると思っていたが、彼に与えられた役割は全く別のものだった。


「よし、これだ!無事だったな!」


 ロケット砲の直撃を受けて潰れた機銃陣地の一つに走った狗井は陣地の中を捜索すると、すぐに円筒状の物体とバックパックを抱えて出てきた。


「幸哉、これを背負え!こいつの装填を手伝うんだ!」


 狗井がそう言って、幸哉の前に突き出したバックパックにはロケットランチャーの弾頭が満載されていた。


「これは……」


 狗井が抱えていた円筒状の物体は携帯式対戦車兵器の六九式ロケットランチャーだった。


「こいつであいつらの突撃を止めるんだ!付いてこい!」


 そう言って走り出そうとした狗井の背中に幸哉は、「ちょっと待って下さい!」と叫んだ。


「俺の……、俺の役割はメディックのはずです!こんな……、こんな誰でもできる役割なんて……」


 幸哉がそこまで言ったところで彼の肩を掴んだ狗井が厳しい声で叫んだ。


「救助だけが任務じゃない!お前はまだここで死なす訳にはいかない!」


 自分のことを命を懸けて守ろうとしてくれている上官の言葉に幸哉が感謝や喜びの感情を抱くよりも先に狗井は再び走り出していた。


「俺の後ろについてろ!必ず、お前を守る!」


 そう強い信念を口にした狗井の後を追って、ロケット弾の満載されたバックパックを背負った幸哉も全力で走った。


(狗井さんは本気で俺のことを守ろうとしてくれてる。だから、彼のためにもこの役割を全力で遂行する……!)


 そう胸中に念じた幸哉の走る周囲では砲撃から生き残った各陣地に解放戦線兵士達が取り付いており、彼らがそれぞれの武器を準備する中では未だかつてない危機に対する兵士達の緊張と恐怖感が漂っていたのであった。

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