第四章 十二話 「戦場での再会」

 連日と同じように一旦収まった敵の攻撃はそのまま陽が出るまで再開されることはなく、夜が明けると代わりに要塞地上部分に対する砲撃が開始された。


 一定の間隔で撃ち込まれてくる迫撃砲弾が地上に着弾する度、全体が微かに揺れ、砂粒が天井から落ちてくる掩体壕の地下通路を抜け、自らの持ち場であるバンカーに戻った幸哉はそこで懐かしい顔と出会うこととなった。


「お!幸哉、ちょうど良かった!お前に会いたいっていう人が来てるんだ!」


 バンカーに入ってきた青年を見るなりジニーが陽気な声をかけてきたが、幸哉は既に来客の姿を見つけており、次の瞬間には歓喜と驚きの声を上げていた。


「山下さん!」


 十年来の友人にあったかのように嬉しそうな反応を見せた幸哉に手を振ったのは彼が三ヶ月前にカム族の陣地で出会った日本人戦場カメラマンの山下信明だった。


「どうしてここに?」


「そりゃ、戦場に出向いて写真を取るのが僕の仕事であり、生き甲斐だからね」


 昨日、南の国境を越えてズビエに入ったんだ……、そう言った山下はバンカーの中で落ち着けていた腰を立ち上げると、幸哉に封筒のようなものを手渡してきた。


「何ですか、これ?」


 小首を傾げた幸哉に対し、意味ありげな笑みを浮かべた山下は、


「さぁな。開けてみてからのお楽しみだよ」


と意味ありげな笑みを見せると、バンカーから出て行ってしまった。


「何貰ったんだ?」


「さぁ……」


 興味ありげな様子のジニーの問いに対し、幸哉も答えが何なのか全く見当がつかず、取り敢えず封筒を開いてみた。すると中からは便箋が出てきた。


(これは……!)


 "拝啓 戸賀幸哉 様"と日本語ではっきりと書かれた文字の筆致に間違いなく見覚えがあった幸哉は差出人の名前を見るまでもなく、バンカーから飛び出した。


 この手紙、どこで手に入れたんですか……、そう問いたかったが、先程バンカーを出ていった山下の姿は既に掩体壕の薄暗い通路には無かった。


「な、お前。何貰ったんだよ?」


 当惑している幸哉に後ろから近づいてきたジニーが手紙を覗き見るようにして問うたが、幸哉は、「秘密ですよ!」とだけ返すと、今度は奪われないように手紙を戦闘服のポケットにしっかりと隠した。


「何だよ!教えてくれても良いじゃねぇか!」


 ジニーの嘆くそんな声が掩体壕に響いたのは六月十六日、朝日が昇り始めた早朝のことだった。

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