序章 十話 「帰国前の感慨」
自分が本当にしたいことはここにある。自分を悩ます問いの答えはここにある。
そんな確信とともに幸哉が充実した時間を過ごす内に滞在期間は過ぎていった。そして、難民キャンプでのボランティア活動が遂に明日で最後となった夜…、幸哉は奇妙な感慨に襲われていたのだった。
(帰りたくない……)
常に命の危険が傍らにある一方で、ズビエには幸哉にとっての生き甲斐があった。日本に帰れば、命の危険はなくなるかもしれないが、その生き甲斐もなくなり、また空虚な日々が始まると思うと、幸哉はそれが怖かったのだった。
窓から差してくる月光が日本にいた時より澄んで見える。心做しか、今日の夜は涼しく、幸哉には感じられた。
幸哉が日本に帰りたくないと思うのは彼自身の生き甲斐のためだけではなかった。バブル経済の崩壊が招いた不景気が原因で人も国も行き詰まった日本とは違い、ズビエの人々は命の危険と何かを失う痛みと隣合わせでありながらも、希望に満ちていた。彼らの笑顔や生きる活気が幸哉を惹き付けて離さないのだった。
差し込む月光を見上げ、難民キャンプで出会った子供達の顔を思い出しながら、幸哉は思うのだった。
(俺はあの人達と生きていきたい……)
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