「どうしました?」


「え、あ、いやあの。ありがとうございました。わたしはこれで」


「なに言ってるんですか。行くんですよあなたも」


「へ?」


「街まで散歩して、ネオンと星空を眺めて。朝になったら公園に行って、おなかがすいたらスーパーで弁当を買って。眠くなったら俺が背負う」


「うそ」


「うそって言いたいのはこっちですけど。なんで小さいままなんだ?」


「いや、これはその、時間軸が多少いろいろありまして」


「ほんとにこどものままなんだ?」


「いや、あの、いちおう2年ぐらい経ったのでこどもではないというかなんというか」


「そうですか。まあ、急にいなくなるから、急に戻ってくると思ったけど」


「覚えてたの?」


「何を?」


「色々。わたしのこととか、街のこととか」


「覚えてないことあります?」


 彼が笑う。


「街いちばんの工事業者だぞ俺は」


「あ、うん」


「あなたがいつ戻ってきてもいいようにってね。ほら。行きますよ。俺の整備した見やすい街を案内しよう」


「うう」


「唸るなって。泣いたら涙で街の景色が見れないぞ」


「泣くなというほうがむりです」


 しゃがむ。


「立てない」


「あ?」


「背負って」


「はやいな。1歩目からか」


 背負う。


「軽いな」


「なんか背中すごいごりごりしてる」


「背筋だなそれは」


「すごい。弾力がすごい」


 街を歩く。ふたり。

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彼女のいなくなったあとで 春嵐 @aiot3110

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