第4話 ENDmarker.

『おい。おまえの彼氏』


「はい」


『街でいちばんの工事業者になったぞ』


「それはすごい」


『はやく会いに行けよ。時間軸的には10年以上も放ったらかしってことだろ?』


「今更、どんな顔して会いに行けばいいか分かんない」


『とりあえず会うんだよ。とりあえず』


「でも」


『長期の狐狩りも一段落したんだ。もういいだろ』


「どうせしぬんだろうなと思って受けた仕事なのになあ」


『生き残ったな。見事に』


「無理ですよ。会えない。やっぱ無理」


『そうか』


「あの」


 無言。いや、通信に乗って、工事業者を呼ぶ声。


「すいません。聞こえてますか」


『いま呼んだ。すぐに参りますってさ。そこに来るぞ』


「何してるんですか」


 隠れる場所。ない。うわあびっくりするぐらいに射線が通る。


「ああ」


 彼が。


「あああ」


 来た。大人の、彼が。


「あれ。さっき電話いただいたんですけど」


「あ。あっああ。はあ」


「いつも通り、通信網の整備ですか?」


「あ、はあ。そうですはい」


「では、とりあえず街の中心まで散歩しながらやっておきます」


 彼。

 普通にしている。

 わたしを前にしても。

 そっか。

 そうだよね。

 彼にとっては、10年以上前のこと、だし。


「どうしました?」


 彼が。にこっと笑う。


「いえ。なんでもないです」


 わたしと彼の間には。

 10年以上の差がある。

 埋まらない、どうしようもない、差が。


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