09




(……それじゃあこっちも)


 不意を打って出ようと、蒼崎がコーナーから銃口を突き出した瞬間だった。



 タタンッ



 ヒュン



 乾いた銃声と同時に風切り音が混じり、のけぞった顔をラバーナイフが掠めていく。


(っぶね……死んでた)


 そう思う間もなく、地を蹴って次のポイントへと飛び込む。背中を拳銃の炸裂音が追い駆けてくる。今度は、こちらが追われる側、なんて。


(百年早ぇよっ!)


 クルリとターンして、迫る関に小銃の先を向ける。銃口にも怯む事なく突っ込んできた関は、撃ち出された弾が服をかすめるのも気にせず懐に入った。そのまま心臓へ叩き込まれそうな拳銃の先を、スレスレで避けて飛び退る。これ、実戦だったら俺達死んでるかも。



「ナイフとかっ、お前の美学にっ、反するんじゃないのっ!」


 襲い来る拳に、結局最後は肉弾戦かと蹴りを挟みながら応戦する。



「俺はっ、健児のヤツにっ、高ぇ肉食わせてやんだよっ!」


 負けじといつになくナイフを抜いては飛ばして来る関は、そんな事を口走った。


「はぁっ?」



 それは、昼頃に交わした『何を願うか』と言う問いの答えである、と気付いた蒼崎は交戦中なのに思考が一瞬停止するのを感じた。致命的な隙――



「もらった」



 ニタリと笑って銃口を突きつけた関に、ほとんど無意識で上体を逸らしていた。



「っち、化けもんか、って」

「ぷっ、はははははっ」



 突然笑い出した蒼崎に、関はギョッとして目を見開いた。それもまた隙だったが、蒼崎はそんな事にも気付かない。


(難しく考えてた俺が、バカみたいじゃん)


 だけど、真理なのかもしれない。ものすごく、そこはかとなく、癪に触るけど。


 小銃を投げ捨て、ホルスターから拳銃を抜き撃ちする。



「なっ」



 今日は多分、これから実戦があるだろう。それも夜戦だ。新兵の二人は生き残れるだろうか。班の奴らは……俺達は?


 死と隣合わせにあるのに、いつも実戦を待ち焦がれている俺達がいる。結局の所、俺達はイカれた戦闘狂でしかない。それでも、矛盾するようだけど、たった一つだけ同じ願いを持っている。誰も、口にしないだけで。


(戦う理由なんて、シンプルで良かった)



 この世界につぐちゃんがいるから。隣で戦っていたいから。生きて、いたいから――



「ハッ」



 蹴り出された軍靴を避けて、宙へと舞い上がった。互いに向けた銃口が、交錯する……この瞬間に血が沸き立つ限り、俺はまだ、生きてられる。




(踊って、やんよ……世界の終わりでっ!)





 引き金を引け――明日へ、向かって。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Welcome to the Apocalypse 雪白楽 @yukishiroraku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ