第27話 一時退却

 街外れに止めてあるトレーラーの場所までエマたちは一時退却した。

 そこでドミニクの提案により、エマたちは昼食をとることにした。


「しかし、何ですかあれは……」

 ドミニクの淹れたココアを飲みながらエマは言った。


「あいつは私たちの世界で生きてる人間だけを殺すためだけに開発したものだよ。そう、生物としての人間だけをね」

 苦いコーヒーをすすりながら、ドミニクは言った。

 


 ハイランド連合王国という機械との融合を目指し、人類を科学的に進化させようというのが国是の国が開発したのがあの銀色の人間だとドミニクは説明した。

 その機械人間サイボーグが突如出現したのが今から三年前のことだとアリス・アストリアは言った。

 街中に降り立った機械人間サイボーグは次々と住人たちを殺害していった。

 住人たちもどうにか対抗しようとしたが、どの武器も通じず、しかもあの殺人光線により、さらに多くの被害者をだしてしまった。

 直接の物理攻撃はどうにか効くことはわかったが、機械人間に対抗できるほどの戦闘技術をもつものはいなかった。

 共和国の中央政府に討伐を要請したが、正規軍の派遣はなかった。

 現在の共和国政府には辺境の地方都市に軍を派遣する余裕はなかった。

 あきらめた街の住人はアストリアの街を捨て、各地へと落ち延びていった。


「だから、見捨てたってのかい。ひどい話じゃないか」

 クラッカーにチーズを乗せ、それをかじりながらベレッタは言った。


「ええ、そうです。なので、生まれ故郷であり、この街をつくりあげた一族の子孫である私は街の奪還を決意し、ワン・シーリン師父に剣技を学び、この地に戻ってきたのです」

 アリスは言った。


「ほう、あの剣神ワン・シーリンの申し子かい。そりゃあ、強いはずだ」

 感心しながら、大きな胸の前で腕を組み、ベレッタは言う。

 剣神ワン・シーリンは大陸随一の剣術使いだというのがベレッタの説明であった。

 弾丸よりも速く剣をふるうことができるのだとベレッタは付け足した。


「さて、どうする?」

 食事を終えたドミニクはエマに訊いた。

 

 それは機械人間のことを無視してボートワス砦にもどるか、このままアストリアの街にとどまり、機械人間を破壊するかである。

 どうやらあの機械人間はアストリアの街をでないようなので無視して前進することも可能だ。

 現在のエマはここで残り、戦う時間的余裕はさほどない。

 それにこの街を救う義務もなかった。


「ただ、気持ちはそれを許さないのだろう」

 ドミニクはエマの瞳を見ながら、言った。


 エマはこくりと頷く。

 この街の惨劇を見て見ぬふりを決め込むほどエマは非情にはなれなかった。

 甘いといえばそれまでだが、それがエマの性格であった。


「私はアリスさんに協力してあの機械人間を倒そうと思います」

 空になったアルミのマグカップをエマは見つめる。


「いいねえ、そう来なくちゃ。あんなのを置きっぱなしにしていったら、目覚めが悪いっちゃあ仕方ないよ」

 どこか嬉し気にベレッタは言う。

 ベレッタにしてもエマと同じ考えであった。

 自分たちのことを優先して、一つの街を見捨てるほどベレッタも冷酷ではなかった。

 そこが彼女たちの長所であり、欠点とも言えた。


「了解。じゃあ、アストリアの街にとどまり、あの銀色野郎をとっちめようかい」

 ドミニクも豊かな胸の前で腕を組み、はははっと笑った。


「ありがとうございます。あのブレーメン旅団の方々が手を貸していただけるのなら、こんなに心強いことはありません」

 赤い頭巾フードの美女アリスは深々と頭を下げて、礼を言った。


「いいんですよ。乗り掛かった船とはこのことです。それにもう作戦はできているんでしょう、ベレッタさん」

 エマはベレッタに言った。

「ええ、できてるわ。ここにいるメンバーならなんとかなるわ」

 髪をかきあげ、ベレッタは言った。

 ふふっとベレッタはその端正な顔に余裕の笑みを浮かべるのだった。


 

 

 

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