第26話 双剣の剣士

 ドミニクが機械人間サイボーグとよんだ物は目から出す赤い光をエマたちが潜むカウンターに集中させてきた。


「生体反応あり。生体反応あり。生体反応あり。これより排除に移ります」

そのつるりとした銀色の体を持つ機械人間は言った。


「まあ、そう簡単には見逃してはもらえないか」

 あきれた顔でドミニクは言った。

 子供のように肩をすくめる。


「で、どうするのさ」

 ベレッタは訊いた。

 エマはドミニクの精悍な顔を見つめている。


「どちらにしても一度トレーラーまで戻ろう」

 ドミニクは言う。


 その間にも赤い光がエマたちに向けられる。


 「目標を排除する。目標を排除する。目標を排除する」

  機械人間は何度も同じ言葉を繰り返す。


「真面目だねぇ。なにも異世界に来てまで命令に忠実でなくてもいいのに」

 ドミニクはカウンター越しに機械人間の様子を伺う。


 

 その時、ビッという音と共に機械人間の目から強烈な光が発せられた。

 赤い光は猛烈な熱を帯び、ドミニクに襲いかかる。

 それにはまるで殺気というものが込められてはいなかった。

 それは機械だから当然と言えた。

 戦士の勘でドミニクは頭をすぐに引っ込める。

 赤い光はドミニクの背後の壁に辺り、黒く焦がした。

「危ない、危ない」

 頭をなでながら、ドミニクは言う。


 

 エマは初めて見る光景に目を丸くしていた。

 なんなのだ、この敵はいったい。

 ドミニクは正体を知っているようだが、はたしてこの場を切り抜けられるのだろうか。

 エマは不安がよぎる心を落ち着かせるために母の形見の戦士の銃を撫でた。


「エマ、ベレッタ。いいかい。あの機械人間を戦士の銃で撃つんだ。倒せはしないが、足止めはできるだろう。そして私がきついのをお見舞いしてやるから」

 にやりとドミニクは笑う。

 簡単な作戦を聞いたエマとベレッタは頷く。


 ベレッタはエマの瞳を見る。

 エマはすでにホルスターから戦士の銃を抜いて、身構えている。

 射撃などエマは初心者同然であったが、きっと戦士の銃の性能が彼女を助けてくれるだろう。


 ベレッタはエマに向かって手を振る。

 エマはコクリと頷く。


 二人はほぼ同時にカウンターから体をだした。


 すぐさま、機械人間は反応する。

 目から発せられた赤い光がエマとベレッタを交互に照らす。

 その瞳に高熱が集中する。

 先ほど、ドミニクを襲った赤い光線が彼女らに向かって発射されようとしていた。


「させないよ‼️」

 ベレッタは戦士の銃の引き金を引く。

 エマも同時に引き金を引いた。

 二つの弾丸は正確に機械人間の目に命中した。

 カーンという甲高い音が酒場に広がる。

 二つの弾丸は見事命中したものの、機械人間を破壊はおろか、傷つけることもできなかった。

 ただ、頭を少し傾けさせただけだ。


 その隙をつき、ドミニクは走った。

 壁に取りつけられた斧をつかむと上段に振り上げ、一気に振り下ろす。

それは恐らく消火用に使われるものだ。


 ガコッと鈍い音がして、機械人間は床に頭を打ちつけた。

 頭が床にめり込み、機械人間は動けない。

「もう一発‼️」

 気合いを入れて、ドミニクは再び斧を振り下ろす。

 機械人間は傷つかないまでもさらに床にめり込んだ。



「さあ、今の内だよ」

 ドミニクは二人にいう。

 ドミニクは出口に向かって走り出す。

 エマとベレッタはドミニクに続く。



 外に出た三人は太陽の下、トレーラーが止めてある場所に向かって駆け出した。



「目標を排除する。目標を排除する。目標を排除する」

 あれだけ床にめり込ませたはずなのに機械人間はすぐに抜け出し、彼女らを追いかける。


「仕事に熱心すぎると過労死するよ」

 減らず口を叩きながら、ドミニクは走る。

 しかし、彼女らよりも機械人間の足ははるかに速い。しかも機械人間は当然だが、疲れることを知らない。

「あいつ速いな」

 ベレッタも駆けながら言う。

「ちょっと、あいつもうそこまで来てるわ」

 エマは首だけ、ちらりと向け、機械人間を見た。

 また、あの赤い瞳に熱が込められている。

 あの殺人光線を発射しようとしている。

 あの光線にやられれば怪我どころではすまない。命も危うい。

 こんなところで死にたくない。

 エマは心底思った。

 彼女にはまだやらねばならないことがある。



「助太刀するよ‼️」

 見知らぬ女性の声がする。

 彼女は近くの背の低い建物の屋根に立っていた。

 赤い頭巾フードをかぶり、両手に抜き身のサーベルを持っている。


 彼女はひらりと飛び下り、エマたちと機械人間サイボーグの間に立った。

 一瞬にして、機械人間との間をつめ、その両手のサーベルで強烈な斬撃を繰り出した。

 合計六回もの斬撃を打ちつけるとさすがの機械人間も後方に吹き飛んだ。

ぐらぐらと地面に倒れる。

 だが、すぐに立ち上がろうとする。

 少しはダメージを与えているようでふらついている。

「自動修復を開始します。修復後、目標を排除します」

 淡々と機械人間は言う。

 機械人間の右肩がバチバチと火花を散らしている。それもすぐにおさまり、傷は元通りになろうとしている。


「相変わらす、厄介ね」

 双剣の使い手は言った。

 背の高い女性だった。

 目鼻立ちがしっかりとした砂色の髪を持つ美人であった。厚めの唇が魅力的だ。


「ありがとう、助かったわ」

 エマは礼を言う。


「さあ、速くこの場所を離れましょう。あいつはある程度距離をとると攻撃してこないから」

 赤い頭巾フードの美女は言った。

「そうですね、そうしましょう。私はエマ・パープルトン。あなたは?」

 エマは訊いた。

「私はアリス・アストリア。この街を造りあげた一族の一人よ」

 赤い頭巾フードのアリスは名乗った。



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