第25話 亡霊が住む街

 ドミニクが運転するトラクターに乗り、エマたちはガイゼルの街を後にした。


 翌日、彼女らは同盟側の国境の街であるアストリアに到着した。


 そこでエマはこの街の異変に気づいた。


 それはこの街が静まりかえり、生きている者の気配がまるでなかったからである。


「おかしいね、この街には誰もいないのかい」

 ドミニクは言った。

「そのようだね……」

 ベレッタもうなずく。


 エマたちは休息をとるためにこのアストリアの街に立ち寄ったのだが、人どころか生物の気配のないこの街の空気に困惑していた。

 もとは酒場のような店をみつけたドミニクの提案により、エマたちは一時休息をとることにした。

「しかし、本当におかしいわねこの街は。人どころか生き物の気配がまったくしないなんて、不気味でしかたないわ」

 エマが正直な感想をもらした。


 ほこりだらけのテーブルを払い、ドミニクは持ってきた軍用リュックから水の入ったボトルを置いた。

 エマたちはそのボトルから水を飲み、一息ついた。


「私が何年か前にこのアストリアに来たときは賑わっているとはいいがたかったけど、人の生活がこの街にあったんだけどね」

 ドミニクは言った。

「まるで亡霊ゴーストの街ね」

 エマは言う。

 ベレッタはそうねと呟いた。

 手持ちぶさたな彼女は戦士の銃をなでた。

「まあ、良いように考えたらこの街でなんの妨害にあうことはなさそうだから、通過してしまってもいいだろうね」

 ドミニクがエマに提案した。

 ベレッタもその意見に賛成であった。

 この街から人が消えてしまった原因は気になるが、今のエマたちはボートワス砦にもどることが先決だ。

 

 この薄暗いもと酒場で簡単な食事をすませた後、エマたちはアストリアの街を立ち去ることに決めた。

 だが、彼女たちは簡単にはこの街から出れなくなってしまった。


 それはある者がエマたちを見つけたからだ。


「生体反応あり。生体反応あり。生体反応あり……」

 その声は同じ言葉を繰り返している。

 どうやら声の感じからしてエマたちに近づいてくるようだ。


 バタンと大きな音がして何者かがこの店に侵入してきた。

 エマたちは立ち上がり、警戒する。

 薄暗い室内で赤い小さな光が見える。

 その光はエマたちの方向に向けられた。


 エマは見た。

 その赤い光をもつ者を。

 その者は銀色の体をしていた。

 形は人間の形をしている。

 だが、人間ではなかった。

 背は百五十センチメートルほどと小柄だ。

 赤くひかる瞳でこちらを見ている。

 どうやらその肌は金属でできていると思われた。


 その者の姿を見て、ドミニクはチッと大きく舌打ちした。

 ベレッタはちらりとそのドミニクの横顔を見る。

「そうかい。そういうことかい。それでこの街には人間がいなくなったのか」

 一人納得した様子でドミニクは言う。

「教えてくれないか、ドミニク?」

 ベレッタは訊いた。

「その前にちょっと隠れるよ、やつはかなりやばいからね」

 そう言い、ドミニクはエマたちをカウンターの裏側に隠れるように誘導した。

 

 日の光のあまり入らない室内で赤い光だけがぼんやりと輝いている。

 その光はどうやらエマたちを探しているようだ。

 細い糸のような赤い光の線が周囲をぐるぐると回っている。

「あの光に気をつけな。あいつは人間だけをころすようにプログラムされた機械人間アンドロイドなんだ」

 大柄な体をカウンターの背後に隠しながら、ドミニクは言った。

「それってどういうことなの」

 エマは訊いた。

 ドミニクの横顔に浮かぶ緊張感に目の前の相手がただならぬものだとエマは直感で理解していた。

「やつはハイランド連合王国が開発した人だけを殺す殺人機械キラーマシンだ」

 ドミニクは言った。

「やつがいたから、この街から人間はいなくなったようだね」

 とドミニクは付け足す。

「そんなにやばい相手なのかい」

 小声でベレッタが訊く。

 無敵とあだ名されるドミニクの緊張をベレッタも読み取っていた。

「ああ、かなりやばいね。やつには銃火器はつかえないらね。近接戦闘で倒さないといけなからね」

 ドミニクは言った。

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