第24話 象の王
次にエマたちが案内されたのは鉄の扉で区切られたある倉庫であった。
南京錠をあけ、ドミニクに続きエマたちはその倉庫に入る。
そこいあったのは、
「こいつ私の愛機
白い息を吐きながら、ドミニクは言った。
エマとベレッタはその頼りがいのありそうな機体を見上げた。
「これが魔王の責を負う七騎の一騎か……」
エマも白い息を吐きながら、言った。
「久々に見たけど壮観だね」
ベレッタも懐かし気に言った。
「この
大きな胸の前で筋肉質の腕を組みあわせながら、ドミニクは言った。
その言葉はなによりもエマにとって安心感を与えてくれた。
無敵とあだ名され、しかもこの魔王の名を冠する機体を操るドミニクが味方してくれるのだ。これほど心強いことはない。
母親のサラとの友情にむくいるためさとドミニクは付け加えた。
「しかしこいつをそのボートワス砦に運ぶにはトラクターに乗せていかねいといけないんだ」
ドミニクは言った。
「なるほどね……」
ベレッタは形のいい顎に手をあて、言った。
彼女の脳裏には明確に大陸、特にガイゼルの街からガープの街までの正確なルートが再現されていた。
「こいつを運ぶとなるとアンタレス渓谷を通るのはまず無理だね。東側の共和国領を迂回するほうが近いだろうね。西側の帝国領側は辺境伯の領地を通過するわけだから、あまり得策とはいえないね」
ベレッタは頭の中の地図を辿りながら、言った。
ベレッタの計算では三日でボートワス砦に戻れるということであった。
今すぐにでも戻りたいエマであったが、この
ベレッタのいうルートで帰る必要がある。
「なに、それでも時間にはまだ余裕がある。いいかいエマ、あとこれしかないって考えるよりもまだこれぐらいあるって思ったほうが精神的にもいいもんだよ」
無敵というあだ名を持つドミニクならではの言葉であった。
彼女の笑顔を見るとエマはどこか落ち着くのであった。
そう、あせっても仕方がない。
ここは頭を冷静にし、限られた時間を大事に使わなければいけない。
エマたちはこの日はドミニクの自宅に泊まることにした。
ドミニクにしても
それなりに準備は必要で、すぐに旅立てる状態ではなかった。
旅の準備をしているなか、ドミニクはとある銃とガンベルトをエマに手渡した。
その銃はその銃身に獣の紋章が刻まれていた。
ベレッタが持つ戦士の銃と同じタイプのものだ。
「こ、これは……」
銃身を撫でながら、エマは言った。
「こいつはドグが開発した銃さ。皆は戦士の銃って呼んでるやつさ。この大陸で開発されたものよりも命中精度が高く、しかも頑強な銃なんだよ。そしてしそいつは、おまえの母親サラが使っていたものだよ」
ベレッタは言った。
「これも母の遺産なのですね」
ガンベルトを腰に巻き、エマは獣の紋章の刻まれた銃をじっとみつめた。
「そうさ、サラ団長は死してなお、私たちを守ってくれてるんだよ」
その戦士の銃を懐かしそうに眺めながら、ベレッタは言った。
「それによく似合うじゃないか、エマ。やっぱりあんたは絵になるね」
どこか嬉し気にベレッタは言った。
ドミニクもうんうんとうなずいた。
その日の晩御飯はエマとドミニクで作った。
あんたは料理だけは下手だから座ってなとベレッタはドミニクに言われたのでおとなしくソファーに腰掛け、ドミニクのコレクションのレコードを再生し、音楽を楽しんだ。
晩御飯はミートボールのパスタにチキンのソテーにバタートーストというなかなかのボリュームであった。
「さあ、まずは腹ごしらえだ。いいかいエマ、戦いにもっとも必要なのは知恵や勇気じゃなくて、補給なんだよ」
ドミニクはチキンのソテーにかぶりつきながら言った。
「そいつは同感だね」
ベレッタはパスタを頬張りながら言った。
その日、エマとベレッタとドミニクはよく食べ、よく飲んだ。
ビールを飲み過ぎたベレッタはエマの手をとり、レコードからかかる音楽を聞きながら踊るのであった。
「こいつはジャズっていう音楽でね、ドグがある楽団にたのんでレコードにしてもらったのさ」
なつかしそうにドミニクは踊っている二人を見ながら、ビールをごくりと飲んだ。
ベレッタの話ではトラクターに象王を乗せ、ボートワス砦に戻るには同盟側の国境の街アストリアを経由するということであった。
同盟側の街を帝国の人間であるエマが通過するのはなにか問題がありそうに思われたが、そのアストリアという街もごたぶんにもれず共和国の力がおよばず、国境警備はないに等しいというベレッタの言葉であった。
そして翌日、朝食をすませた三人は
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