第22話 トリプルD

 エマはその鷹獣グリフォンと呼ばれた獣鬼兵ビーストウォーリアを見上げた。黒と灰色の混じったその機体はどこか独特の空気をまとっていた。

 これはハーゼル男爵が使用していたジャッカルとは基本的な構造はにているが、その背中に生えた翼がかなり異形であった。

「これをあなたが一人でつくったのですか?」

 エマは訊いた。

「ああ、そうだよ。まあ厳密にいえばアズライルとスルーシに手伝ってはもらったけどね」

 銀色の髪をかきあげながら、アリババは言った。

 このような代物を作り上げるアリババの執念のようなものを感じとった。彼女が味方になることによってかなりの戦力増強がみこめた。

「アリババさん、頼りにしますね」

 エマは正直に言った。

 彼女としても戦力は一人でも多く欲しい。

 鷹獣グリフォンのような獣鬼兵をつくりだしてしまう彼女の才能とその機体はブレーメン自警団のためになると思えた。

 アリババはエマの手を握る。

 エマもその手を握り帰した。

「よろしくな、エマ団長」

 アリババは言った。

 団長という響きにどこかエマはこそばゆい感覚がした。


 その後、エマもベッドにはいり休むことになった。

 朝になればアンタレス渓谷をぬけてついにガイゼルの街に向かうことになる。この旅の目的であるドミニク・ドンキー・デュランに会うことになる。

 ベレッタの話ではかなり頼りになる人物だとのことだった。

 その二つ名は無敵のドミニクというくらいだ。


 エマはアリババのために手紙を書いた。それはボートワス砦で留守をまもるギュンターにあてたものだった。

 あたらしく仲間になるアリババにそれを持たせた。

 その手紙の最後にエマは黒猫の絵を描いた。

「へえ、なかなかうまいじゃないかい」

 ベレッタはその黒猫の絵を見て、言った。

 エマはなかなか手先が器用だったのである。

 これから先、この黒猫印はエマ独自のサインとなるのである。

 この手紙にエマは新しい仲間のアリババとアズライルとスルーシの兄妹、そして鷹獣グリフォンのことが書かれていた。

 

 アリババは鷹獣グリフォンに乗り、自身のアジトをあとにした。

 彼女は決意していた。

 もうここにはもどることはないだろうと。

 

 アリババたちを見送ったあと、ベレッタとエマはまた機馬サイボーグホースにまたがり、アリババのアジトを後にした。


 アンタレス渓谷を抜けるとそこに開けた平原であった。

 すこし走ると街道にたどりついた。

 渓谷に比べれば、それはかなり楽な旅であった。

 そして昼頃にはガイゼルの街にたどりついたのである。

 ベレッタの話ではこのガイゼルの街の倉庫街にトリプルDことドミニクは住んでいるという。

 さらにベレッタとエマは機馬サイボーグホースを走らすとある大きな倉庫とその横におまけのようにつけられた居住場所がそえられていた。

 そのくたびれた居住場所から一人の人物があらわれた。

 首にゴーグルをぶらさげた作業服のおおがらな女性だった。

 白髪まじりの髪を首の後ろでゆるくたばねていた。

 エマは遠目にその女性を見た。

 大きく手をふっていた。

 エマたちは機馬をおり、その人物のところにむかった。

「ベレッタ!! 泣き虫ベレッタ!!」

 ハスキーな声でその人物はかなりの上背があった。身長は百八十センチは軽くあるだろう。長身のベレッタやエマよりももう一つ背が高い。

 袖をまくった腕でベレッタを抱き締めた。

「ドミニク、あいかわらず酒やけした声だね」

 ベレッタは言い、ドミニクの体を抱き締めた。

 この人がベレッタの言う、無敵のドミニクか。

 その二つ名がしめす通り、彼女の容姿は頼りがいのあるものであった。

 一通り、ドミニクはベレッタと再会を祝したあとエマの体を抱きしめた。

 エマはドミニクの豊満な胸に抱かれながら、彼女の体温の熱さを感じとった。

「エマ、あんたは覚えてないと思うけどあんたがまだ小さいときにあってるんだよ」

 ドミニクは言った。

 母のサラの親友であったという彼女はどことなくエマになつかしさを感じさせていた。彼女のことは記憶にないのであるが体のどこかにドミニクのことを覚えていたのかもしれない。

 エマの体を離したあと、ドミニクは彼女の居住区に案内した。


 その部屋は機材や工具で一杯であった。

 小さなテーブルに二つのコーヒーとココアを一つ置いた。

 ココアはコーヒーが苦手なエマのためにいれたものだ。

「私のところに来たということはかなりの危機ピンチだということだろう」

 ドミニクはコーヒーをすすりながら、言った。

 ベレッタはフェルナンド辺境伯の宣戦布告をうけたことをドミニクに説明した。

「これはこれは絶体絶命じゃないか」

 どこかうれしげにドミニクは言った。

 ドミニクは久々にかんじる戦場の空気に高揚感をおぼえいるようだった。

「たのしそうだなトリプルD」

 その様子を見てベレッタもどこか嬉しげであった。

「そりゃそうさ、あのサラの忘れ形見に頼られたのだから、こんなにうれしいことはないさ」

 ドミニクは言った。

「そうだそうだ。良い機会だ。エマ、あんたにおもしろいものを見せてやろう」

 そう言い、ドミニクは後ろのキャビネットからあるものを取り出した。

 それは太い鉄の筒状のものだった。

 上の部分が蓋のようになっていた。

 ドミニクはその蓋をひねると中からガラス瓶を取り出した。

 そのガラス瓶の中には金色に光輝く球状のものが浮かんでいた。

「こ、これは……」

 エマは訊いた。

「こいつはドグが開発した魂機動ソウルドライブさ」

 ドミニクは言った。

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