第19話 作戦会議
ミネルヴァからの宣戦布告を受けたエマは急ぎ、自警団の
ギュンターはこのとき、交易商のリュークと男爵の残した物品について取引を行っている最中であった。
ヨアンナからの報告を受けたギュンターは急ぎ、大広間に向かった。
「リューク、あなたも来てもらっていいですか」
ギュンターは交易商のリュークにそう声をかけた。
彼は先の大戦で戦いに巻き込まれ、右足を悪くしていた。
そのため杖をつきながら、彼はギュンターの後に着いていった。
リュークは彼なりに自分の体の一部を奪った帝国を恨んでいた。
そのためエマたち自警団の活動には好意的だったのである。
この度、ギュンターの呼び掛けによりガープの街を訪れたのである。
足の悪い自分は戦いには参加できないが彼には商才があった。その能力をギュンターに見込まれたのである。
大広間にはすでにエマ、ベレッタ、ピーター、リナが集まっていた。
リュークをつれたギュンターが大広間に入るとすこし遅れて織物工のヤンがやってきた。
「ついにこの日がやって来てか」
ギュンターは誰にということはなく言った。
「正直こなければいいと思っていましたが、きてしまいましたね」
ヤンが言った。
「ミネルヴァという人が言うには二週間後にこの砦に攻めこむということでした」
エマはヨアンナが用意したミルクに口をつけた。
ヨアンナは皆に鶏肉と野菜のサンドイッチを用意した。
「まずは腹ごしらえだよ。腹がへってたら良い考えもうかばないだろう」
ヨアンナの提案は至極的を得ていた。
昼食がまだであったエマたちはそれにうまそうにかぶりついた。
「二週間後と言っていましたが、それよりは早くなるということはあるのでしょうか」
心配気にピーターは口を開く。
「それはないね。帝国貴族というものは
とギュンターはピーターの心配を否定した。
「それは私も同感だね。昔、その気質を利用してサラ旅団長は帝国のやつらをさんざん苦しめたのだからね」
ベレッタも同意した。
「しかし二週間後に攻めてくるのは確実なんですよね」
エマは言った。
早くなることはなくともなくなることはないのである。
十四日後にはフェルナンド辺境伯の軍と戦わないといけないのは確実である。
「これは公表されている情報なのですが、フェルナンド辺境伯の軍は
リュークが商人らしい現実的な情報を提供した。
それは公表されているものでそれよりも多いことはあっても少ないことはないだろうというのがリュークの分析であった。
エマたちの戦力差は圧倒的であった。
「さて、あんたらどうするの」
深刻そうに考えるエマにヨアンナは努めて明るい声をかけた。
大きな胸を揺らしながらヤンの肩を抱いた。
ヤンは顎に手をあて考え込んでいる。
「幸か不幸か、僕たちには二週間という時間が与えられたんだ。僕たちはその時間を使って戦力を増強しないといけない。降伏というのは考えられない以上、僕たちは辺境伯の軍と戦わないといけないからね」
ヤンは言った。
ヨアンナはその大きな瞳でヤンの顔をまじまじと見た。
「ジャック叔父さんを頼るんだね」
ヨアンナは言った。
「ええ、僕はあの人を頼ろうと思います」
ヤンは言った。
「そうね、あの変人が力を貸してくれれば千人力ね」
ヨアンナは豊満な胸の前で腕を組ながら言った。
「力を貸してくれればね……」
と付け足した。
「戦力を増強するなら、私も一人知り合いがいるんだ。ブレーメン旅団の生き残りで名前はドミニク・ドンキー・デュラン。トリプルDもしくは無敵のドミニクって呼ばれた人さ」
ベレッタは言った。
今にも立ち上がり、その人物の所にいきそうな勢いであった。
「エマ、あんたもついてきな。あのトリプルDにはあんたを会わせたいんだ」
ベレッタはどこかうれしそうに言った。
エマたちの当面の目的が決定した。
彼女らは戦力を増強するため、それぞれの知り合いを頼ることにしたのである。
ベレッタの友であるドミニクは北のアンタレス渓谷をこえた所にあるガイゼルの街の外れに住んでいるということであった。
ヤンとヨアンナが誘おうとしているジャックという人物は、南の港町ギランで気ままに暮らしているということであった。
その日の午後にはエマとベレッタはリュークの用意した
ヤンとヨアンナの姉弟はピーターと共に港町ギランに向かった。
出発の前、リナは姉の手をとり旅の無事を祈った。
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