第17話 辺境伯の使者

 自警団を結成してからのエマたちはかなりの忙しさであった。

 黒猫亭に宿泊するのはベレッタとギュンターだけであったのでエマは、自警団のことに集中することができた。

 まずは本拠地となる場所であった。

 そこは織物工のヤンの提案でハーゼル男爵が根城にしていたボートワス砦となった。

 エマとベレッタによってかなり破壊されてしまっていたが、それでも自警団の本拠地とするのに十分であった。

 まずエマたちが取り組んだのは、サラが残した武器弾薬をボートワス砦に運び込むことであった。

 それらをギュンターが運転するトラックに積み込み、砦まで運ぶ。

 そして休眠スリープモードから解除され、エネルギーを充填された九尾の狐ナインテイルも砦の中に入れた。

 それだけで丸一日を使ってしまった。

 エマたちは砦に泊まり込むことにした。

 夜にエマがつくったサンドイッチやフライを食べているとヤンの姉のヨアンナがあらわれた。

「ヤンがなにかこそこそやってると思ってたらこんな所で面白そうなことやってるじゃないかい」

 ヨアンナはその豊満な胸の前で腕組みし、ヤンの肩を叩いた。

 彼女は冷えたビールやワイン、オレンジジュース、そして料理をエマたちに差し入れした。

「ヤン、私もまぜてもらうよ」

 明るく笑い、ヨアンナは無理矢理入団した。


 ボートワス砦にはハーゼル男爵がガープの街から徴収した貴金属や宝石、絵画が残されていた。

 ギュンターはそれをできるかぎり、持ち主に返却した。

 残念ながら持ち主不明のものがいくつかあり、それらはそのまま自警団の活動資金へと使わせてもらうこととした。


 エマは男爵が残した最後の言葉が気にはなっていたが、自警団の活動の忙しさでつい忘れてしまっていた。

 まあ、時間があるときにでもギュンターやベレッタに相談すればいいかとエマは考えていた。


 サラの残した遺産のほとんどをボートワス砦に運び終えたエマはボートワス砦の屋上にいた。

 ブレーメン自警団を結成して三日目の正午のことであった。

 一段落したエマはそこから周囲の景色を眺めていた。

 冬の風がつめたく、エマの赤い髪をなでていく。

 周囲は荒野であり、砂や岩石だらけの色の少ない景色であった。

 まだまだエマが倒したジャッカルの破片がそこらかしこに転がっていた。

 晴れた空に雲は少なかった。

 空気は冷たかったが、晴れ渡っており、空は青かった。

 

 エマはそこに自分の髪と同じような真っ赤な点をみつけた。

 その点は西からだんだんとこちらに近づいてくる。

 点は近づくにつれ、ある形をとるようになったいた。

 それは鳥であった。

 大きく羽を広げた炎の鳥がエマのほうにむかって飛来する。

 ついさっきまであんなに冷たかった風が今は汗ばむほどの熱気を帯びていた。

 炎の眩しさに目を細めながら、エマはその炎の鳥を見た。

 その炎の鳥はエマの前に舞い降りた。

 そうすると不思議なことに炎は一瞬にして消え、そこから一人の少女が出現したのだ。

 羽つきのつば広帽をかぶったエマと同年代ぐらいの秀麗な顔だちの少女であった。黒いマントを羽織り、細剣レイピアを腰にぶらさげている。

「エマ!! 炎の鳥がこっちにきているよ!!」

 異変に気づいたピーターがベレッタをともなって屋上にやって来た。

「エマ、無事かい」

 そう言い、ベレッタはエマの左横に立つ。

 ピーターもすでに愛用となっているライフルを背にエマの右横に立った。

「ええ、ベレッタさん、ピーター」

 エマは目の前の少女に警戒しつつ、二人に答えた。


「私はフェルナンド辺境伯の使者でミネルヴァと申します。この度は伯のお言葉を預かり、この場に参上いたしました」

 ミネルヴァと名乗った銀髪の少女は羽根つきのつば広帽をとり、それを胸にあて深く礼をとった。



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る