第10話 獣の王
タマモの言葉の続きをききたかったが、そんなのは敵にはおかまいなしだ。
またもや背後から五十口径バルカン砲が攻撃する。
ダンダンダンと乾いた音がこだまする。
しかし、エマの順応度もたいしたものだ。
ジャッカルたちの殺意をさっすると左半身をひねり、砲撃をかわした。
弾丸たちはむなしく大地に穴をあけるだけだった。
突進してくるジャッカル一体の腹をけりあげ、エマは距離をとるため後ろにとんだ。蹴り飛ばしたジャッカルは腹部に巨大な穴を開け、動かなくなった。
「
エマはタマモに訊いた。
「
タマモは説明する。
タマモの言葉を信じるなら、ただでさえ高性能の
だが、そんなうまい話にはかならずデメリットがあるはずだ。
「発動させたあとはどうなるの?」
エマは尋ねた。
「発動期間は約三百秒となっています。その後は十二時間の強制的に
タマモは言った。
ということは機体性能を圧倒的にあげたあとは半日は動けなくなるということだ。約五分以内にこの戦いを終わらせなくてはいけないということだ。
さてどうするか?
エマが思案していると左横に回り込んだジャッカルと歩兵が砲撃を繰り出した。避けようとしたエマであったが九尾の狐の左肩を砲弾が掠めていく。
「ちっ……」
ビリビリとした痛みが左肩に走る。
「装甲度が七十六パーセントに低下しました」
タマモが現状報告する。
「しかたがない」
エマは言った。
このままではらちが開かない。
その
「わかったわ、タマモ。その
エマは言った。
妹をさらったやつらを獣王の力とやらで蹴散らしてやろうではないか。
「了解しました。これより
タマモは言った。
タマモの言葉の後、エマは背中に違和感を覚えた。
なにやら背中がもぞもぞする。
「う、うんっ……」
背中に極細の毛のようなものが侵入してくる。
その毛は背中の肉に侵入するとやがて脊髄に接触した。
「くはっ……あんっ……」
その毛のようなものは脊髄に侵入し、接続する。
その感触はえもいわれぬ快感であり、痛みはけっしてなかった。
「あんっ……ハアハアッ……」
快感に頭がぼんやりするがエマはどうにか意識を保った。
ここで意識を失ってはもともこもない。
「神経接続を強化しました。
タマモは言った。
「ギャアオオオッ!!」
九尾の狐が天に向かって咆哮した。
その叫びの後、九尾の狐は両手を大地につけた。
機体が変形する。
臀部が開き、装甲が九つにわかれる。それは剣の形をしていた。
胴体がのび、両手両足に鋭い鉄の爪が生える。
その姿は神々しい白狐であった。
九つの剣の剣の尾をもった神の化身である。
いや、タマモの言葉から考えられるのは魔王の化身といえた。
「ぐふっ……」
エマはおもわず、喘ぎ声をもらした。
体中に力がみなぎるのを感じた。
目が充血し、エマの端正な顔に青く太い血管が浮かぶ。
涙が勝手にながれ、その涙にも血がまじっている。
正面上の小さなモニターに三百の数字が浮かび、すぐに二百九十九となる。
どうやらカウントダウンがすでに始まっているようだ。
時間が惜しい、エマは九尾の狐を走らせた。
九尾の狐は剣の尾を大きく揺らしながら、大地をかける。
「ギャアウッ!!」
機体は生きているかの如く、叫ぶ。
一番近くのジャッカルに噛みつくと、瞬時に首を跳ねてしまった。
ジャッカルのコクピットは後頭部にある。
そのジャッカルに乗っていたパイロットは断末魔をあげることなく、九尾の狐の牙によって体をコクピットごと切り裂かれてしまった。
九尾の狐はジャッカルの頭部をゴミのように吐き捨てると背後から迫ってきた別のジャッカルを九本の尾の剣で粉々に粉砕した。
ジャッカルはその機体をまっぷたつにされ、周囲に配置されていた歩兵たちを巻き込んだ。鉄の破片の直撃を受けた装甲車は中にのる人間ともどもつらぬいた。すぐに中の燃料に引火し、装甲車は爆発した。
エマは正面のモニターに刻まれた画面をちらりと見た。
二百九十四秒。
わずか五秒でエマはジャッカル二体を撃破した。
「やれる。これならやれる」
エマは戦いに興奮していた。
彼女は圧倒的な獣の王の力を手に入れたのだ。
「やつらを皆殺しにしてやる!!」
エマは叫び、すぐ横にせまっていたジャッカルの首を噛み砕いた。
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