第7話 挟撃作戦
荒野を
感覚を共有するエマはその体に強い風を感じていた。
九尾の狐がその身にうけることは神経を同調させたエマにも感じることができる。ということはなんらかのダメージを受けた場合、そのダメージは直接エマの体に影響されるということだ。
気をつけなくては。
エマは心中、そう考えた。
何度かのジャンプも繰り返す。
一度ジャンプすると二、三百メートルは飛ぶことができた。
驚愕すべき機体性能である。
操縦するエマはハアハアと息を荒くしている。
どうやら機体性能は凄まじく高いが、その分、反動もすさまじくエマの体力を少しずつ削っていく。
今のままではそう長くは操縦できないだろう。
九尾の狐を自由自在に操るにはもっと体力が必要だとエマは思った。
それに戦闘をするならば格闘術なども修練しなければいけない。
才能はあると思われるが、今はどこにでいる少女でしかない。
しかし、それは今後の課題であって最優先すべきはハーゼル男爵に誘拐された義妹のリナを取り戻すことだ。
エマは操縦桿をにぎる手にも力が入る。
右の画面に写るベレッタが大きく手をふるので、エマは九尾の狐を走らすのをとめた。
額に浮かぶ汗をかるくぬぐう。
コクピットハッチをあけると新鮮な風がはいり、ほてった顔を冷たく冷やした。それはここちよい感触であった。
「エマ、大丈夫かい?」
肉屋の少年ピーターは心配そうにエマの紅潮した顔をのぞいた。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ピーター」
エマは微笑し、言った。
「はじめてでこれだけ動かせれば上等だよ、エマ。でもリナを助け出すまでは気をぬけないね」
ベレッタが乱れた皮ジャンを整えながら、言った。
ベレッタは胸の谷間から極小の双眼鏡を取り出すと南西の方角を見た。
その双眼鏡は三十年戦争時代から使用しているベレッタ愛用のものであった。
発明家でもあったドグ・スターロックが開発したものである。
「見えるよ見えるよ。あれが変態男爵がいるというボートワス砦だね」
ベレッタの視界には三十年戦争時代に帝国によって造られた石と鉄の武骨な建物が見えた。
エマも正面上に設置されたマップを確認する。
そこにもボートワス砦の文字が浮かんでいた。
距離にして後三キロメートルほどである。
「あと三キロあるかないかというとこだね」
ベレッタの目測も正確なものであった。
「で、どうしましょう」
エマはベレッタに訊いた。
このまま単機で突撃するのはあまりに芸がないように思われた。
下手に攻撃しても数でまさる男爵のほうがやりようはいくらでもあるだろう。
それに歴戦の戦士であるベレッタにはなにか作戦があるようであった。
「ここからはわかれて進もう。エマはできるだけ派手に暴れてほしい。派手に暴れて男爵の目をひきつけて欲しいんだ。私とピーターはその隙にリナを救出するよ」
ベレッタは言った。
それは雑な作戦であったが急ごしらえなので仕方がないだろう。
こんな時にハーメルン旅団の昔の仲間がいればどんなに心強かっただろうか。
しかし、今は私しかいない。
もてる戦力でできることをやるんだ。
ベレッタの頭にサラ旅団長の言葉が浮かんだ。
そうだ、いつも最高の戦力をそろえれるわけではないのだ。
かぎられた手札でこちらがやれる最善のことをすべきなのだ。
「わかりました、ベレッタさん。どうかご無事で」
エマは言った。
「ええ、エマもね。そして全員、生きて再会しましょう」
ベレッタは言った。
「エマ、気をつけてね」
ピーターはエマをはげます。
「ええ、ピーターもね。リナを助けたら、みんなでご飯を食べましょう。私が腕によりをかけてつくってあげるわ」
うふふっとエマはピーターに微笑みかける。
「ああ、楽しみにしているよ」
ピーターは言った。
ベレッタとピーターは九尾の狐の手からおりると、駆け出していった。
二人の背中はだんだんと小さくなっていく。
エマはコクピットハッチを閉じると再びボートワス砦に駆け出した。
すぐに距離は縮まり、残り一キロメートルとなった。
肉眼でもその鉄の砦は確認できる。
近くの手頃な岩をつかむとエマはその砦にむかって投げつけた。
その投擲は大砲の弾丸なみの威力があった。
轟音とともに鉄の壁に穴が空いた。
「さあ、派手にいくよ」
エマは精神が高揚していくのを如実な感じとった。
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