第5話 ナインテイル

 エマはその純白の機体に近づき、そっとなでた。

 その感触はひんやりと冷たかった。


 これが母さんが使っていたものか。

 その幾何学的な美しさを持つ機体はサラがエマのために残したものだ。

 もしかするとサラはいつかこのような事態になることを予想していたのかもしれない。


「サラ旅団長はどこぞの国と戦争でもするつもりだったのかもしれないね」

 ベレッタは壁いっぱいに立て掛けられた武器を眺めながら、言った。

 機体近くのロッカーをあけるとそこから一着の服を取り出した。

 それは九尾の狐ナインテイルとよばれた獣鬼兵と同じ純白のものだった。

 どうやらパイロットスーツのようで全身をおおうものであった。

 ベレッタはそれをエマに手渡す。

 エマはそのパイロットスーツを両手で受け取った。

「そいつもサラ団長が着ていたものだよ。今のあんたなら着れるはずだよ」

 ベレッタは言った。


 白のパイロットスーツを受け取ったエマは服を脱ぎ、下着姿になった。

 十五歳とはいえ、エマの体はよく成長していて女性らしいふくらみと細い腰が魅力的だった。

「ちょ、ちょっとエマ。何をしているんだ」

 ピーターが慌てて、言う。

「何って、着替えるんだよ。この機体に乗ろうと思ってね。こいつをうまく操縦できればきっとリナをとりもどせるだろう」

 エマはそう言い、下着姿でパイロットスーツにさっさと腕をとおす。

 その姿を見て、ピーターは顔を真っ赤にして背中をむけた。

「変なピーター。昔はよく裸になって水あびしたじゃない」

 ふふっと笑いながらエマは無邪気に言った。

「そ、それは子供のときの話だよ」

 ピーターは照れながら言った。


 そういえばサラ旅団長もよく兵士たちの前で半裸でうろうろしていたな。

 彼女にはそういう恥ずかしさというものはなかったのだろう。

 旅団の兵士の皆を家族のように思っていたからだろうとベレッタは思った。

 そしてサラ旅団長はほれぼれするほどスタイルがよかった。

 その血はまちがいなくエマに受け継がれているようだ。

 下着姿のエマもそのボリュームのある胸とよくひきしまった腰と張りのある尻が魅力的だった。

 ピーター少年が顔を紅潮させるのもうなずける。


 ベレッタは顔を赤くしているピーターに近づき、肩を抱いた。

 ベレッタの熱い息を頬に感じ、ピーターはさらに顔を赤くした。

「少年、武器はあつかえるか」

 ベレッタは訊いた。

「ええ、父親と何度か猟にでたことがありますから」

 ピーターは答えた。

 ベレッタは壁の武器たちからライフルをみつくろい、銃弾と一緒にピーターに手渡した。

 ピーターはそれを背中に背負う。

「これでいっぱしの戦士だ。期待しているよ」

 ベレッタは言った。

「はい、ベレッタさん」

 ピーターは答えた。

 彼は好意をもつエマのためにがんばろうと決意するのであった。

 ベレッタは他にもいくつか軍用リュックになにやらいれるとそれを肩にかついだ。

「こんなものまでおいてあるなんて。サラ団長は本気で戦争をするつもりだったのかもね」

 一人言のようにベレッタはつぶやいた。

 そしてベレッタは分厚い刃のナイフをその太ももにくくりつけた。


「おまたせ」

 真っ赤な髪を首の後ろでくくり、エマは言った。

「ほおう……」

 ベレッタは思わず感嘆の声をもらし、ピーターはごくりと生唾を飲み込んでしまった。

 それほどその純白のパイロットスーツを着たエマは美しかったからだ。

 そのパイロットスーツはエマの体にぴったりとはりつていて、その抜群のスタイルのよさを際立たせていた。

 豊かな胸の谷間や形のいい尻のラインまでくっきりと見てとれることができた。

「こいつは驚いた。サラ旅団長の生き写しだね」

 うれしそうにベレッタは言った。

 どこかなつかしい気分になった。

「この服いいね。ぴったりと体にフィットして気持ちいいよ」

 エマは体をくるりと一回転させた。

 長い、赤い髪がくるくると舞って、ボリュームのある胸がよく揺れた。

 ピーターはその胸の揺れから目が離せなかった。


「よし、じゃあさっそく九尾の狐ナインテイルを機動させよう。お腹の裏側にコックピットハッチがあるからそこの鍵穴に鍵を差し込んでみな」

 エマはベレッタの言う通り、金の鍵を機体の腹部にある鍵穴に差し込んだ。

 右に捻ると腹部が開き、コックピットがあらわれる。

 せまい座席であったがエマはその長身を滑り込ませるように中にいれた。

 手探りで鍵をぬくとハッチがしまる。


 コックピットの中は薄暗かったが、どうにか中をみることができた。

 両端にコントロールスティックがあり、どうやらそれで操縦するようにおもわれた。

「中央下にまた鍵穴があるからそこに黄金の鍵を指しこんでみな」

 機体の外からベレッタの大声が聞こえる。

 エマは再び彼女の言う通り、その鍵を目の前下にみつけた鍵穴に差し込み、右にひねる。

 パチパチと室内が明るくなる。

 どうやら正面と左右にモニターがあるようだ。

「起動確認しました。私はこの機体のメインオペレーターであるタマモといいます。搭乗者の遺伝子を確認します」

 中央の画面から声が聞こえる。

 その声のあと、首すじにちくりとした痛みを感じた。

 座席の頭部のところから小さな注射針がのび、エマの白い首筋にささる。

 つつっと血が流れる。

「遺伝子を確認しました。サラ・パープルトンと同様の遺伝子を認めたので、搭乗者としてこれよりアップデートを開始します」

 タマモの声がしたあと無数の細い毛が座席の両脇から生え、その毛はスーツの布地の繊維の隙間を縫い、エマの皮膚に侵入した。

「うんっ」

 その奇妙な感触にエマは思わずあえぎ声をもらしてしまった。

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