肺炎がきっかけで通院することになり、点滴を受けるベッドで偶然にも隣り合った二人の男女。年齢も経歴も全く違う二人の内面が、文学的に綴られる秋の情景と共に、美しい日本語でエモーショナルに語られます。
……しかしそんな美しい日本語や、小気味好いテンポで綴られるのは、良い年した大人の意地の張り合い、煽り合い、マウント取り合う知識合戦。「病人同士で何やってんだ」と言いたくなるやり取りと、小奇麗な文体が良い意味でミスマッチしておりギャップがあり、何度も笑ってしまいそうになりました
とはいえ後半はそれぞれの『家庭』や『人間関係』にフォーカスが当たり、「そしてこの二人はセックスするのか!?」という当初からの疑問に対して、誰も不快にならない納得できる素敵なオチが付けられたと思います。
短~中編として綺麗にまとまっていますが、前半の二人の子供じみた舌戦が好きなので、そこをもっと膨らませ、もうひと勝負かふた勝負あってから、本題に突入しても良かったんじゃないかなと個人的に感じました。「良いぞもっとやれ」って感じですね。
瀬名の方の問題は区切りが付きましたが、戸比側の『家庭』には踏み込んでいないので、息子の優一郎との関係や問題を主軸にして、更にストーリーを発展させることも可能だと思います。
ですがコレはコレで読みやすく完結していて好きなので、作者さんの中に本作への意欲や愛着やアイデアがあるか次第ではないでしょうか。
全く違う登場人物や舞台で、こんな感じの『頭の良い大人達が豊富な知識や語彙を使って取っ組み合う』お話を読んでみたいなとも思いました。面白かったです!