第8話 ハールディーズの力技
「それで、戦況はどうなってるんだ? えらく静かだが」
「俺なーダイク、お前を本当に尊敬するよ。あの砲撃の轟音が響く中、一度も起きなかったもんな、スゲーよ」
「昨日は戦闘あったのかよ」
「いやホントお前の眠り姫っぷりには呆れるね。あったもあった、大ありだ。一日中砲撃音が鳴り響いてたぜ。向こうさんはこっちの陣地に大攻勢をかけてきたよ」
「何で今日はこんなに静かなんだ」
「向こうさんにも都合あるってことだろ。大砲部隊は撤退を始めた。エイクロイドは多分このまま野戦隊形を維持してにらみ合いって形ではなく、リール川西岸にある拠点を占拠し占領狙いだろう。まあ正直こちらも反転攻勢をかける程戦力にも物資にも余裕があるわけじゃない。侵攻を防ぐのが精いっぱいってところだな」
「向こうさんの都合ってなんだよ」
「海の向こうだろ。ま、まだ不確定だからはっきりわからんがね。あとな、殿下の指示が全部的確だったってのは防衛戦やってく中ではっきりした。野戦の大敗北直後から準備できたってのはデカいな。
リール川渡ろうにも舟はないし、浅瀬渡ろうとすりゃこっちの大砲が釘をドカンとまき散らす。あれ人相手だとシャレにならない効果だわ。おまえらが撤退戦でやってたっていう地大砲に詰めた小石? 全然ダンチだと思うぜ。
騎兵なんて馬乗って後ろクルクルしてるだけだぜ。橋を強行突破しようとしてきたからタイミング見てドカンよ。馬が空飛ぶ姿ってのはなかなかシュールだぜ」
「なんだよ自分たちだけだと思うなよ、こっちだって馬ぐらい空に飛ばしたぜ」
「別に張り合ってるわけじゃないんだけどな。お前たちが頑張ってくれたおかげで貴重な時間が稼げたんだ。物資の集積、
何だよハンスの野郎、最後だけ真面目くさりやがって。照れるじゃねえか。
でも、俺なんか殿下をお守りしてたかって言われたら、どっちかって言うと殿下に守られちまった、護衛失格野郎だと思う。
殿下はスゲーよ。あんだけ魔法バシバシ使えるし、指示も的確だし、スゲー俺たちを信頼してくれるし。
でも何か違和感があるんだ。何で殿下はあんなに弱弱しいんだろう。
ボリスが死んだあと、殿下が泣きながら言ってたあの言葉。
『すまない、ボリス、みんな。私の見通しが甘かったせいで皆を死なせてしまった!』
『地大砲を設置して発射できるようにしたら、皆を先に逃がすべきだった! 私一人だったら気兼ねなく地大砲を撃てて、こうやって敵に損害を与えられていた! 私が判断を誤ったせいだ!』
あの言葉って、自分一人で片付けられる力がある、ってすごく傲慢な意味に聞こえなくもない。
でも実際の殿下はそんな傲慢さは全くない。むしろ謙虚だ。
普段は傲慢を隠してるってことなのか?
「なあハンス、ちょっと聞いてくれよ」
「何だよダイク、トイレの場所か?
「ちげーよ、アホ! マジな悩みなんだ。実は撤退戦の時こんなことがあってな……」
俺は撤退戦の時の殿下の言動をハンスの野郎に話した。
普段
えらい長い時間考えてハンスの野郎は言った。
「……殿下は、どれだけ優秀とは言ってもまだ13歳、ってことだな、ダイク。
なあ、考えても見ろよダイク、13歳で殺し合いを平気でできるもんか?
自分が考案した武器を自分で操作して敵をグロくぶっ殺すって、13歳でやったらどうだと思う? 俺スゲーって思うんだろうか?
まあ多少はそういうのあるかも知れねーけど、実際グチャグチャになった人間見て平気でいられるもんなのか?
こっちを殺しに来る敵って必死で思い込まないと精神が持たなかったんじゃないか? そもそもだ、殿下は進んで人を殺したがる人だったか?」
「いや、何かを傷つけるのを嫌う人だよな。魔物の解体なんかも血を見るのが苦手だったから、あんまり見に来なかったしな」
「多分殿下は、自分の役割を果たそうって、その目的のために必死だったんだ。今回で言えば、王家直轄軍の被害を抑えて味方の貴族家の軍をなるべく多く逃がす、って目的だ。それ以外のことは何がどうなっても仕方がないことだって割り切ろうとしてたんだ。
方針の指示が見事だったんで、ついみんな殿下が13歳で初陣で、人が目の前で死ぬのを見るのは初めてだってコト忘れてたんだな。俺も忘れてたよ。
多分敵兵を地大砲でぶっ飛ばすのだって、本当は敵を殺すまではしたくなかったんだろうな。でも、迂闊に近づけば死ぬ、って敵に思わせないと味方がどんどん殺される訳だから、目的のためって思い込んでやってたんだろう。
もう殺したくない、近づくな、ってのが敵騎兵に対しての思いだったんじゃないかと思う」
「そうか、敵に対してもそんな風に思ってるのに、守りたいって思ってた味方のボリスが目の前で殺されて、どうしたらいいのかって混乱したのか」
「ボリスが殺されたのもそうだし、別に他の兵が殺されたりしてもショックだったと思うぜ。そんな様子あったんじゃないか?
まあでも混乱したってのは正解だろうな。
それで自棄になった。
自分が犠牲になって……っていうのは、もう殺すのも殺されるのも嫌になったんだろう。それ以上考えたくないっつーな。
言いたかないが、オマエが目の前で死んだりしてたら、殿下は本気で自棄になってたんじゃないかな。どれだけ被害を被っても敵に大打撃を与えて自分も死ぬ、みたいなことを。火薬が詰まった
「いやいや、流石にそんなことはしねーだろう。だって王族だぜ?」
「おいおいダイク、オマエそれ本気で言ってんのか? な訳ないよな。昔っから殿下見てれば分かってるだろ? 王族の特権意識振りかざすような人じゃないから俺だってオマエだって心底仕えようって思ってるんだ。そうだろ?」
「ハンス、酒に酔った時の話持ち出すなよ! 恥ずいわ!」
「オマエが酔った時に出る言葉は本心だろうが。観念しろよ。
とにかく、ジョアン殿下は周りの、俺達や兵たちや、フライス村の村人たちのことをよく考えてくれるし助けたいって思ってくれてる。俺たちゃそんな殿下が好きだし助けたいって思ってる。
でもよ、殿下は自分自身のことをあまり自分で大事にしないよな、昔っから。何かこだわりはあるけど基本自分の得より他人の得を優先するっつーか。
多分殿下は殿下自身の価値が周りより低いって思ってるんだろうな。だから自分を真っ先に斬り捨てたり犠牲にしたりすりゃいいって考えやすいんだと思う」
「そうなんだよな。何であんなしっかりしてんのに自分のことは粗末にすんのか……殿下を失ったら悲しいどころじゃないぜ」
「家族や周りから存在価値を認められなかったり蔑まれたりして育つと、自己評価が低く自信を持てない性格になるってこと多いみたいだが、殿下の場合は実母の第二王妃殿下にはかなり愛されていた。陛下や第一王妃陛下、祖母の前王妃殿下にも、特段評価されず蔑まれたりという話は聞かないしな……弟君のジャルラン殿下との関係も悪くはないし。
そうなる理由がわからん。
ただ、俺達からすると、殿下の奥にそうゆう傾向があるって理解した上で、そうゆう面が顔を覗かせないように補佐してく、それしかない」
「それって具体的にどうすりゃいいんだよ?」
「殿下を孤独にしないこと、だな。普段からもそうだが、今回の全体指揮官みたいな任だと、決断は指揮官がしなきゃならん。最もそこは侵しちゃならない部分だが……でも、殿下が決断を迫られる時、その決断から来る重責を軽くできるように、俺達も担えるようになっとくべきだろうな」
「ハンスお前さあ、もうちょっと判るように言えって! 俺は具体的にどう行動すりゃいいのか知っときたいんだよ!」
「……そうだな、今回のことだったら、俺で言えばもうちょっと殿下に決断できる情報や材料をお伝えしとかにゃいけなかったって反省してる。後で気づいて負傷者後送の手配とか取ったが、あれはもっと早く、殿下が指示を出される前に伝えとけば殿下はその点だけでも悩まずに済んだ。俺もまだまだだ。
お前で言えばダイク、今回の動きで良かったと思うぜ。俺はお前のそんなとこが羨ましいよ」
コイツ全然具体的なこと言いやがらねえ。
勿体付けてんじゃねーっての。
「おい、ハンス、何度も言うが、俺の何が良かったってんだよ! 俺は殿下のお命を危険に晒しちまったんだ!
あそこでダリウス様が来て下さらなかったら、俺は、俺は……自分の愚かさを呪いながら死んでたんだ!
そんな俺の、どこが良かったってんだよ!」
「……ホールデン達に聞いたぜ、お前ボリスのことがあった後、殿下に声かけたんだろ?
それできる奴っていねーよ。ホールデン達だって、殿下の言葉一緒に聞いてて、何て声かけたら良いかわからなかったって言ってたよ。
お前のそうゆう機を違えずに芯食った内容を言ってくれるとこ、真似したくても出来るもんじゃねーんだ。
こんなこと言うの恥ずいが、俺だってお前のそうゆうとこに小さい頃から随分救われたし、殿下だってお前の言葉で何度も救われてる筈だ。
それで今回もそうだった。俺はお前のそんなとこが羨ましいんだぜ」
「俺はまったくそんな大層なこと言えてねーよ」
「いいんだよ、とにかく殿下が落ち込んだ時、何やかんや話しかけて殿下の気を紛らわせてくれればよ。とにかく鬱陶しいって殿下に思われようと、殿下が落ち込んだ時一人で悩むようなことをさせなきゃいいんだ。
お前はそれでいいよ。むしろお前にしかできねえ。
そんで、お前が出来る事をとにかく一生懸命やっときゃ大丈夫だ。
ああ、それとな、さっきも言ったけど、今回お前の最大の手柄はお前が殿下を残して死ななかったことだからな。絶対殿下より先にお前は死ぬなよ」
「はあ? 本気で言ってんのか」
「
俺もお前には死んで欲しくない。
ずっとお前がいるっての、俺にとっても普通なことだからよ。
だから、戦の前にしっかりメシ食うようにしとけよ!」
「……わかったよ。本当に今回で懲りたわ。
謙虚にいくよ。
まずは体力戻さねえとな」
そう言って俺はジョッキの中身を上を向いて一気飲みした。
俺の表情がハンスの野郎に見えないよう隠すためだ。
俺は、ちょっと感動して体に入ったばかりの水分が、目から垂れそうになっていたんだ。もったいねえ。
ジョッキの液体を飲み干した俺はハンスの野郎に言った。
「おかみさん、もう一杯」
「バカ野郎、誰がおかみさんだ。めんどくせーからハチミツ、レモン、湯を持ってきてやるから自分で作って飲め! そんだけ元気だったらいいだろ。ただしそれ以外は絶対動くなよ」
「トイレは?」
「森の中の穴!」
そう言ってハンスの野郎は出て行った。 そういう意味じゃねーんだがな最後のは。
ハンスの野郎……俺が弱ってる時に好き放題言いやがって。
俺だって本当はハンスの野郎に言いたかったが言ってないことがある。
目を覚ましてハンスの野郎の姿を見た時、我ながら変に感極まったんだ。
ああ、生きて帰って来れたんだ。
ああ、またフライス村で木こりの真似事できるんだってな。
ハンスの野郎との付き合いは長い。ハンスの野郎が産まれて物心ついた時から近習としてリーベルトの屋敷で過ごしてきた。本来主筋のハンスにこんな言葉で喋るってのは出来やしないが、ハンスの野郎は一人っ子だからか俺に対等な立場を要求した。
最初は無理やりこうやって対等に話すようにしてきたが、何だろうな、今ではもう親近感が湧きすぎてる。
ジョアン殿下もそうだ。俺に対等に話せっていつもフライス村では言っていた。
だからもう俺にとっちゃ殿下もハンスの野郎も家族みたいなもんなんだ。
俺の母親が亡くなってからは、一緒に暮らす時間が長い二人が俺にとっての家族って感じている。俺はその穏やかな時間を守りたいんだ。
絶対、絶対本人には言わないけどな。
それでこの戦争の
結局この戦争はエイクロイドと海を挟んで対峙しているイグライド連合王国の仲裁が入り、リール川以西をエイクロイドに割譲し、先に手を出したのはこっちだって事にされて多額の賠償金まで払うことになっちまったが、一応は決着した。
アレイエム王国はイグライド連合王国にも借りを作った形になり、イグライドの工業製品を買うように契約を結ばされた。
まあ、これに関しては悪いことばっかりじゃないが、それはまた何時か誰かが語るんじゃないか?
リール川に防衛線を引いたせいでこうなったって後出しジャンケンのように戦後殿下を責めたお貴族様連中、俺は今度同じ状況になったらお前らが居ようと地大砲ぶっ放すってことに決めてるからな。
戦後、気が変わって殿下を庇った数人を除いてはな。
ああ、腹が減ってた時のこと思い出しながら食ってたら結構食ったわ。
そろそろやめとくか。 平らげた皿を置く。
結局この控えの間で食い物バクバク食ってたのは俺とハンスの野郎とブルーノくらいだ。
でもこの3人で山盛りの大皿料理の大半食べたんだから、作った料理長エルマーさんも喜ぶだろう。
もう食わなかったせいで死にかけることはゴメンだからな。
今日これから起こるコトに関しては、俺は気に入らなかったんだ。また殿下の自己犠牲かよって。何があったのかあれこれ聞いても全然殿下は教えちゃくれねえ。
だけどハンスの野郎に相談したら「殿下の命に危険が及ぶようなコトになったらどんな手を使っても殿下をお救いする。でもそうなるまでは殿下の意向に任せよう」だとさ。
ハンスの野郎は何か期待してる風だったが。
まあコトをお止めしないで殿下の意向通りに見守る、そう考えてりゃ、今日のコトは殿下の珍しい芝居が観れるとでも思えばいいやな。殿下の命に係わることになれば何があってもお救いするし、どんなことでもする覚悟はある。
まあ俺が死んだら殿下が悲しがり「私のせいだ」ってなるだろうから、命を懸けるのはそれしか殿下を救えないって時だけだが。
控えの間から卒業パーティを開催している広間の様子を伺える隠し窓を覗いていたハンスの野郎が俺を手招きするのが見えた。
周囲の他家の護衛の目を慮って、わざとらしい驚愕の表情を浮かべているハンスの野郎の横に行く。
小声でハンスの野郎に話しかける。
『何だよ、始まったのか』
『ああ、殿下の真面目ぶった表情がたまらんな。しかしジャニーン様がマリアをいじめたって糾弾内容があまりの内容のなさに泣けてくるな』
『それにしてももう少し何とかなっただろ、事実じゃねえことで無理やり難癖つけるんだから。理由なんて何でもいいんだからよ』
『仕方ないだろ、詰めが甘いって言うか、ジャニーン様に本気で嫌われるのを、こんなコト仕出かす段になってもビビってるんだぜあれは』
『他のことだとあんなこたあねーのにな』
『いやまったくだ。ああゆうところを見ると、殿下も年相応にセーシュンしてんだなって思うぜ俺は』
『おまえにもそんな時期があったのかよ』
『あったり前だろ、俺は永遠の18歳だぜ』
『30近いおっさんがそんなこと言ってるとキモいぜ、ハンス。言いたかねえが早く親父さんのリーベルト伯爵を安心させてやれよな』
『バカおめー、お前みたいな獣人は年わかんねーけどよ、俺みたいな人間は気持ちが若くないと一気に老け込んじまうんだよ、身を固めるだけが人生じゃねーだろが』
『お前、ホント親に心配させんなよ』
『……身を固めたら殿下と一緒に居られなくなるだろ。俺はもう少し殿下と一緒に過ごしたいんだよ。親父にゃ話して渋々認めてもらってんだ……あと数年だけだ。
ところでダイク、俺はちょいと広間入口で衛兵と一悶着起こしてくるからよ、驚いてるふりして展開見といてくれよ』
『何でわざわざそんなことするんだよ』
『殿下のお心に沿って、俺たちが殿下がやろうとしてたこと知らなかった、てのに信憑性が出るだろうよ』
『フリが細けーなー』
『そーゆー細けーのが女にモテる秘訣なんだよ。じゃ、行ってくるぜ』
そう言ってハンスの野郎は控え室を出て行った。
しばらくするとハンスの野郎が広間の前に立つ衛兵に何か言ってる声が聞こえてきた。
大方、「殿下をお止めせねば、ここを通せ」みたいなことだろう。
そっちは放っといて広間の中を見る。
ちょうど殿下がジャニーン様に問いかけたところだ。
「ならば問おう、ハールディース公爵令嬢。私のような
と妙に気取った言い回しで告げた。
笑わすなよ殿下(笑)
ならば問おうて(笑)
笑っちまうけど、本当にいいのかい? あん時叫んだのが殿下の望みなんだろ? このままじゃ本当に叶えられなくなるぜ……
さて、ジャニーン様はどう答える?
「そういうことであれば……ジョアン第一殿下と私の婚約破棄の件、謹んでお受けいたします……」
あーあ、殿下、自分で言っときながら、ジャニーン様に婚約破棄承諾されて、そんな切ない表情出しちゃ駄目だろ。
まあ
なあ殿下、これは殿下が本心で選んだことなのかい? 絶対違うだろ。撤退戦の時にあんだけ恥ずかしいくらい赤裸々に叫んでいた殿下の本心とさ……
国内貴族の一本化だあ? あんな下らねえお貴族様共のために、わざわざあんたがそんな辛い思いするこたあないわ。殿下は殿下のやりかたで貴族気にせずやりゃいいんだよ。これが殿下のやり方とは、俺には思えないんだ。
あんたはもっと自分と自分の好きな者にしがみついて良いんだぜ。わざわざ嫌われようと演技する必要なんかどこにあるんだよ。
何つーか、本当に、本当にやりきれねえよな、こっちもよ……
「……とでも私が言うとお思いですか!」
言うと同時にジャニーン様が鋭く踏み込み、ワイルドに左腕を振り回し殿下の腹に一発拳をぶち込み、そのまま反動を利用して下がった殿下のアゴに右拳をぶち込んだ!
いやー、人間があんな斜めの角度で錐揉み一回転するの、初めて見たわ。
ジャニーン様、あれは
そして、ジョアン殿下をぶっ倒して、何だか思案顔をしているジャニーン様を見て、俺は何だか笑えてきた。
フッ、フフフフフフ。
隣の広間に聞こえないように、声を殺して笑う。
なんと言うか、すがすがしい気分だ。
流石ハールディーズ公爵の娘だわ。
あんな野蛮な力技で状況を、小賢しい殿下の企みをぶち破るのはハールディーズの血だわ。
自分が心底惚れた女に小賢しい演技をぶっ飛ばされてどんな気分だい? 殿下。
ジャニーン様に扇でパチンをわざわざ貰いに行ってる殿下だから、喜んでるかもな。
フッ、フフフフ フフフ
広間ではジャニーン様が必死で状況を誤魔化そうと四苦八苦している。
殿下は、あれは気絶したフリだな。
まあジャニーン様なら、何とかこの状況を
気合? 根性? うーん、違うな。
肝が据わってる、か。うん、それがしっくりくる。
ブレない女性だ。必ずやり遂げる。
殿下、起き上がったらしっかりジャニーン様を受け止めてやんなよ。
そうしないとバチが当たるってもんだぜ。
殿下もそうしたいって5年前に言ってただろ?
殿下が忘れたって言ってトボけても、あん時の生き残りみんなが聞いてるからな。
あんまりシラ切るとガリウス様の前であの時殿下が言ったこと、口が滑るかも知れねえなー。
ハンスの野郎が笑ってる俺を見つけて、慌てて戻ってくる。
『どうしたんだよダイク、どうなった?』
俺はハンスの野郎の肩に手を回し、こう言った。
『喜べよハンス、今日も俺たち、王家の馬車に無事乗って帰れそうだぜ』
そして俺は、人間には聞こえない高音で、思い切り声を出して笑った。
武官のダイク
~婚約破棄?上等です落とし前はつけますし逃がしませんよ。 外伝~
おしまい
武官のダイク ~婚約破棄?上等です落とし前はつけますし逃がしませんよ。 外伝~ 桁くとん @ketakutonn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます