エピローグ
今日、わたしたちはひとつの節目を迎えました。しかしそれは、「戦後」の終わりを意味するものではありません。
あの凄惨で悲しい悪夢から十年…わたしたちは互いに認め合い、互いに手を携え合うことで新たなる時代を拓く道を選び、共に歩んできました。もう二度と、あのような悪夢を現実のものとしてはなりません。
まだ何も解らない子供だった頃、わたしは自分の生まれ育った町が一瞬にして瓦礫の山と化し、炎の海に沈む光景を目にしました。埃にまみれた風、むせかえるような血の臭い、木霊する悲鳴と嗚咽…まさに地獄そのものでした。
すべてが灰色と赤色に塗り潰されたあの日の光景を、忘れることは出来ません。そんな悲劇があの戦争では其処彼処で現実のものとなり、日常となっていたのです。その結果、戦争当事国の犠牲者数は約5000万人と言われています。わたしたちの誰もが近しい人を、親しい人を、愛しい人を…あの戦禍で失いました。悔やんでも悔やみ切れず、どれほど涙を流そうと…心に巣食う喪失感は拭い切れません。
ですがそれでもわたしたちは、銃を持たずに済む未来を目指し歩んでいきます。何故ならわたしたちが今過ごしているこの穏やかな時間は、5000万人が命を賭してでも迎えたかった、貴重な瞬間であることを理解しているからです。彼らの文字通り全身全霊を捧げた挺身によって勝ち取った、掛け替えの無い瞬間であることを理解しているからです。
大地に倒れ、海原に沈み、蒼天に散った彼らにわたしたちが示せる礼儀は唯一つです。彼らから託された未来を、必ずやわたしたちの手で、彼らが描いた姿で実現すること…。明日をも知れない恐怖に震えながら眠る夜も無く、危険な場所へ旅立つ人の背中を見送る朝も来ない…そんな世界を、彼らも描いていたはずです。
誰かを殺すことも、誰かに殺されることも無い世界を夢見たはずです。人は誰だって生きていたい、この世に生を受けたからには自らの生を意味あるものにしたい…生まれた意味も、死ぬ理由さえも解らないまま最期を迎えるなんてことがあってはなりません。そんなことがまかり通ってしまう戦争を、繰り返してはなりません。
わたしの大切な人たちは今この時も、この空の向こうで彼らの戦いを続けています。すべての兵器がその存在意義を失い、あらゆる絶望を踏破した先に待つのは、未だかつて誰も見たことのない夜明けであると信じて、黎明の
今日、第二次天地戦争終結から十年を迎えるこの日に、わたしたちは誓いを立てましょう。5000万の血とそれ以上の涙で紡いだこの平和を、恒久のものとすることを…。そしてその未来への道が如何に険しく長くとも、決して立ち止まることなく歩み続けることを…鬼籍に入った同胞たちの御霊に誓うのです。戦争の記憶を語り継ぎ、その果てに掴んだ平和の価値を説き続け、彼らから託された未来へのバトンを次の世代に繋いでいきましょう。
平和への誓いを貫き、反戦の歌を謳い続ける…それがわたしたちの戦いです。空を翔け、終わりの見えない戦いを続けるわたしたちの仲間が一日でも早く家に帰れるように…。わたし、テルニーア・シャリオは平和を願うすべての祈りのためにこそ命を燃やし、セントエルモの火となりましょう。5000万の思いがわたしたちの背中を押してくれます。血も涙も充分流しました、今こそ世界を変える時です。
進みましょう、目指す未来へ。
叶えましょう、彼らとわたしたちの願いを。
創りましょう、子供たちに笑顔で託せる…そんな世界を。
<Fin.>
黎明のソアラ 斗夢猫 @TOMneco
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます