『ゆうれいマッサージ』

やましん(テンパー)

『ゆうれいマッサージ』

 『これは、あくまで、フィクションです。ほら的コメディであります。現実とは、一切無関係です。』



        



 肩がこる。


 肩が、凝った。


 肩こりが見る風景も、変わるものではないが。


 腰も、痛い。


 まるで、背中が板金みたいだ。


 行き付けの整体院さまは、最近は、疫病があまりに世間で流行るものだから、既往症が多いため、遠慮させていただいている。


 だから、スマホは苦手だが、怖いアニメや映画などを見たあとだから、なんとなく、ためしに検索してみた。


 『無料マッサージ。ゆうれいさん可。』


 すると、なんと、ひとつ、当たりがでた。


 『危険はありません、さまよえるゆうれいさんに、職を提供する、ボランティア団体です。』


 なんだろう。


 『運営担当。不思議が池、さちこ。』


 『ぶっ。なんと、幸子さんとこか。しかし

そういえば、最近は姿を見せないな。そんな、ボランティア始めたなんて聞いてないし。怪しいか。もしかして、偽物かな。』


 そこで、気になったぼくは、幸子さんにメールしたのである。


 すると、すぐに、幸子さんが現れた。


 『お待たせしましたあ。そっちから、メール来るなんて、普通じゃないと思って。やましんさん、自決するの? なら、早速、お池に行きましょう。』


 ぼくは、こう言ったのである。


 『違うよ。肩がこってさ、寝られないから、ネットみたら、これが出てきてさあ。』


 『あああ。なんだあ。それかあ。まあ、女王さまから何も連絡がないから、おかしいとはおもったんだけどなあ。それ、アルバイトなんだ。1ヶ月分でね、不思議が池お気楽饅頭の、新発売、豪華贈答用バスケットが、ふた箱と、お酒ぱっく、2ダースね。


 だって、最近は、あまり、お客様がこないのよ。


 心霊スポットとかいうのにされて、騒いで暴れる若者が増えてね。本当に必要としている、やましんさんみたいな人が、来なくなっちゃったんだなあ。管理組合も地元から言われて、困って、夜は、上がれないように、門を作るしかなくてねぇ〰️。だって、夜中が不思議が池の女神さまにお願いする、むかしからの、決まりなのに、お手上げじゃん。夜間は予約制にしたらしいけど、電子パスの発行が必要でさあ、まあ、なかなかあらかじめ、そうした予約してくるひとは、いなくて。不思議が池お饅頭本舗も、売り上げ50%減少でね。だから、少しでも助けになればと、この、ゆうれいさんの職業相談してる団体と、コラボしたわけよ。』


 わかったような、よくわからないような、話しである。


 『まあ、怪しいところでは、ないわけか。』


 と、言っている自分が、ばかみたいである。


 『まあ、それに、最近は、ゆうれいさんが、悪者扱いにされていて、なかなか、職に付けなくてね。マッサージは、生前プロだったゆうれいさん用なんだ。』


 『職って、ほかに、どんな?』


 『いろいろ、あるよ。そうした、団体からの依頼が多いんだ。写真に写ってあげるとか、足を引っ張るとか。』


 『あのね、それは、あまり、推奨できないよ。やはり、社会の公序良俗に反するんだ。たぶん。あまり、詳しくはないけど。』


 『こうじょうりょうじょく………なんだろう。そんな言葉、女王さまの授業には、出なかったような。』


 『あのね、りょうじょくじゃない。りょうぞく。一般の社会的秩序および善良な風俗、のことなんだ。まあ、学生時代以降は、あまり普段は使わない言葉だけどね。結婚さぎ、とか、違法賭博とか、だめ。とかね。民法第90条。反する行為は、無効。』


 『ふうん。でも、ゆうれいには、適用されないでしょう?』


 『まあ、ゆうれいさんの行為を、違法として裁くことはできないよ。存在自体が、認められないだろ。』


 幸子さんは、慣れた場所でもあり、ずでん、と座って、すぐに、お饅頭で一杯やり始めた。


 『でも、需要ならある。まえに、女王さまに聞いたら、人間が間に入ってるなら、サービス業務だって。王国では、そうした法律もあるって。』


 『あの王国は、それぞれ、ちょっと制度が違うよ。それも、一部王室所有地域だけの特別ルールだしね。まあ、この国にも、礼拝所及び墳墓に関する罪。は、刑法にあるけど、あの王国では、その地域だけは、ゆうれいさんなどの存在を公認している。そこは、違うよね。この国は、政教分離だから。』


 『ふうん。ゆうれいさんなどなら、ここにいるでしょう。まあ、幸子は、足引っ張ったりなんかしないから。』


 『池に引きずり込んだりは?』


 『それは、相手が望んだときだけで、しかも、女王さまの地獄に、ふさわしい人だけだしぃ。』


 『それは、自殺幇助だからね。ほんとは、まずいと思うけどな。まあ、幸子さんが行うのは、立証できないからな。』


 『ふうん。で、なんで、呼んだのよ。寂しかったからでしょ。ほんとは。』


 幸子さんは、不満そうに言った。


 あまり、幸子さんを怒らせるのは、得策ではないだろう。


 お饅頭嵐が吹き荒れるから。


 後始末が、大変である。

 

 でも、たしかに、そうなのだ。


 マッサージなら、安いマッサージ・マシンがある。


 誰かと、話がしたかったのが、本音というべきなのだ。


 『マッサージなら、幸子がしてあげるよ。そう言えばいいのに。』


 いやあ、そうなるのが、やはり、心配なのだ。


 幸子さんは、一種の死神さんである。


 また、マッサージは、プロではない。


 下手されるのは、さすがに、心配である。


 『まあ、やましんさんは、素直じゃない。寂しかったら、そう言えばいい。苦しかったら、そう言えばいいのに。』


 『む! 言ったさ。助けも求めたよ。だから、休職も、退職もしたしさ。でもね、こうしたものは、結局は、自分で引き受ける以外には、方法がないんだ。自らを助ける以外には、方法がないんだ。でも、肩こりマッサージとか、痛み止とか、抗うつ薬とか、手助けはしてもらうけどね。話し相手とかも。でも、ゆうれいさんとか、神秘的な、なにかなどの助けは借りない。主義に反するんだ。』


 『なら、呼ばないでよ。まったく。まあ、女王さまの手前、むちゃくちゃできないけどなあ。』


 実際、幸子さんと、喧嘩するのは、本意ではない。


 『すいませんでした。』


 『すぐ、謝るのも、良くないって、女王さまも、言ってた。口ごたえばかりもダメだとも、言ってたけど。』


 まあ、確かに、そうだろう。


 そのあたりの、さじかげんは、ぼくも、いまだに、よくわからないのである。


 あんたには、子供がいないから、社会的常識や、やり方からは、かなり外れてる、とも言われた。


 幼稚だ、とも、上司から度々叱られもした。


 それは、すべてが、正しい指摘なのか?


 まあ、きっと、正しいのだろう。

 

 指摘した人は、事実、昇進したのだから。


 社会は、そうした、それぞれの常識の、範囲でなければ、成り立たないのだから。


 喧嘩ばかりしていたら、埒が明かない。


 ただ、多少は、喧嘩しなくては、お互いの理解もできないか。


 暴力は、ダメだが。



 『まあ。やましんさんは、お酒飲まないからなあ。』


 『だって、幸子さんは、飲んでも、酔わないだろ。』


 『む。………まあ、そうなんだけどなあ。それは、幸子の悩み事なんだなあ。』


 『え? そうなの?』


 『そうなんだなあ。聞いてくれる? 女王さまなんか、ひとの体を利用してるから、酔うらしいけどさあ。お酒飲んでも酔わないのって、哀しいよね。』


 『そうかい?』


 幸子さんは、いつも次々に、お酒ぱっくを、どこからか、取り出してくる。


 いまだって、そうである。


 飲みながら、文句言うのは、いつもではあるが、悩み事、というのは、珍しい。


 『そうなんだなあ。だって、ゆうれいも、ストレス貯まるのよね。なにしろ、最近の人間が、あんなに、礼儀知らず何て。幻滅だよね。むかしの若者は、もっと、礼儀があったんだ。なにしろ、ね、この前なんか、せっかく管理組合が作ってくれたお堂に、落書きしたりも、したしぃ、……………バチ当てたいけど、女王さまから、禁止されててさあ………』


 『ふうん。そうなんだ。』


 『そうなのよお、だからね、………』


 そうして、そのあとは、ひたすら、幸子さんの愚痴を聞く夜になった。


 肩こりは、やはり、治らないままなのである。


 もっとも、肩こりにならない人も、世の中には、いるらしい。


 それでも、聞く役は、なにかと、たいへんなのは、分かってはいるのだ。


 マッサージの話しは、なくなったのである。


 



             おわり

 

 


 


 

 


 

 


 

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『ゆうれいマッサージ』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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