第6話 姉
「でだ、母さん」
幸一は博人の二つ年上の姉で、防衛大学の一年生だったが、今では“ウォーカー”を一掃する〈防衛隊〉の部隊に入っている。
「大掛かりな掃討は終わったよ。というより、“ウォーカー”は昼間は日影で眠っているだけだからね」
幸一はそう言う。
「私はね、幸一には『幸せを独り占めするような女の子に』って意味で名付けたのよ。できれば、荒っぽいことには反対だったんだけど」
「母さん、女の子なのに『幸一』なんて名付けられたら、こんな性格にもなるさ」
にこりと笑う幸一。
「けれど、名前にもこの性格にも感謝してるけどね。ともかく、“ウォーカー”は都内の路上にいる奴らに関しては、一通り『処理』が終わったよ」
「それは凄いけど姉ちゃん、やっぱり夜中はそれなりに“ウォーカー”を見かけるんだけど?」
博人はそう言う。
「東京1400万人の内、99%が感染しているんだ。全てを『処理』することはできないよ。奴らは、夜中というより、日が沈むと動き始め、人を襲う・・・“ウォーカー”に噛まれ、その体液や血液が入ると“ウォーカー”に変化し、夜をさ迷い歩く」
「お姉ちゃん、危ないじゃん・・・もう止めなよ」
結衣は思わずそう言った。
「そう気軽に言える性格が羨ましいよ、結衣」
「フン、どうせ馬鹿だモン」
「けれど、もう引くに引けないんだ。仲間を危険に晒しながら、元は同胞だった人たちを殺していっているんだ」
幸一は毅然として前を向いている。
「私たちは、これでも市民の安全を守るために働いているんだ。そして、その処理数1200万・・・血にまみれた手だが、私には誇りだよ」
「・・・私はそんなのより、お姉ちゃんが無事のがいい」
結衣は本当に率直な性格だけど、今は博人も同意見だ。
「さて、そこで本題だけどね、ともかく博人と結衣の通学路は安全が確保されたと思っている。私たち〈防衛隊〉もついていくから、一週間後からまた学校に通いなさい。ほら、口を開けてどうした? 君たちはまだ学生なんだから、教育は義務だぞ。ほら、そんなに驚いてどうしたんだ?」
1ページごとに驚く家庭物語 スヒロン @yaheikun333
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