第3話 図書室
椎名さんの告白から約一週間。特に進展もなくただ時間が過ぎていた。個人的に話すこともなく、席が近いだけで疎遠に近い状態であった。
そんなことを考えていても、時間は皆平等に過ぎてゆくわけで……。
僕は図書室の片隅でアンケートや未返却の本の集計など雑務に追われていた。普通はそんなに時間のかかる仕事ではないのだが今日は少し状況が違っていた。
今日に限って同じ役員の女子が休んでしまっていたのだ。そのせいで僕は一人で二人分の仕事をする羽目になった。
友達に聞いても「めんどくさい」の一点張りで誰も手伝ってくれない。
そのせいで僕はいつもよりもゆっくりとだるそうに仕事をこなしていた。正直言って一ミリもやる気が出ない。
無心でテンキーとエンターキーを叩く。定期的にエンターと鉤括弧を間違えて小さなストレスがたまる。さらに途方もない作業量に気が遠くなっていた。
「野宮くん、大丈夫?」
僕は動かない頭とだるさからゆっくりと上を見上げた。僕のことを心配そうに見つめる椎名さんがいた。
「え。椎名さん? どうしたの?」
「本の返却ついでに、見かけたから挨拶しようかなって」
「ああ、そうなんだ」
僕は入力する手を止めて、椎名さんの方へ向き直る。
「それにしても、仕事多そうだね」
椎名さんは僕の横にあるアンケート用紙を一枚取り、「大変」と他人事そうにぽつりと呟いた、
「まあ、当番の子休んでるから仕方ないよ」
「そっか。その、私で良ければ手伝うよ?」
「いや、いいよ。手を煩わせるのもなんだし」
僕がそういうと椎名さんはすごい不服そうな表情を浮かべる。何か気に入らなかったらしい。顔を膨らませたように僕を睨んだ。
そして、椎名さんは何を言わずにカウンターの中に入って、図書アンケートと書かれた紙を手に取った。
「いいから、やらせてほしいな」
椎名さんは半ば強引に僕のとなりに置かれた用紙に手を伸ばして作業をしようとする。こうなっては仕方ないのでアンケート用紙と集計用紙を渡した。
「じゃあこれにまとめておいてくれる?」
「わかった。ありがとね」
椎名さんはニコッと満面の笑みを浮かべて、ペンを走らせていた。
僕の横に座った彼女は僕の意識を一瞬で持っていった。ほんのりと香水の香りが漂い、いつもよりも近くにいることを感じずにはいられなかった。
カウンターは結構狭く、二人で座れば人によっては不快に感じるくらいで、さらに左利きので自然と距離が近くに感じられた。
僕の拍動は明らかに速くなっていた。しかし、この興奮も数分も経てば収まり始めた。
二人で作業を始めてから約15分。キーボードのカタカタという音とペンの擦れる音が図書室に広がっていた。放課後に入ってから1時間も経てばテスト期間でもないため、人っ子一人いない。
突然、僕の腕に椎名さんの腕がぶつかった。
「あ、ごめん」
「あ、うん。平気気にしないで」
「わざとじゃないからね」
「分かってるよ」
「そか」
なんとなく気まずい空気が広がる。お互い変に意識をしすぎなのか、明らかに作業速度が落ちていた。
「その、これノートパソコンだから、よかったら席変わる?」
「うん、そうしてくれると助かるかも」
そして、僕たちは場所を入れ換えて、また作業を始め、ラストスパートをかけていった。
「んー、やっと終わった!」
「お疲れ、僕も終わった」
「野宮くんもお疲れ」
僕たちは自然とハイタッチを交わす。そして、僕は疲れから椅子にもたれかかって、伸びをした。頂点に来たときに、椎名さんに見られていることに気付いてすぐに引っ込めた。
「気にしなくていいのに。変なの」
椎名さんはいつものように大きく手を動かしてケラケラと笑う。僕もそれにつられて笑ってしまう。
「手伝ってくれてありがとう、帰りに何か奢るよ」
「前に勉強教えて貰ったから、いいよ」
「あんなの大したことじゃないって」
「じゃあ、また今度何か一緒にしてほしいな。その、奢られるのはあんまり好きじゃないから」
椎名さんはそう言うと、鞄を持ってカウンターの外へ出ていった。僕もファイルを保存して追いかけるように出た。
僕は図書室の電気を切って戸締まりを済ませる。その間、椎名さんは扉の前でじっと僕が出るのを待ってくれていた。
僕は君に告白をする @fei1220
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