第149話 葉月の苦難

 




 ◆エルちゃん視点





「ふふ......にんむかんりょなの! はづきねーたん、あいあと!」

「うん、どう致しまして」

「あ! はづきねーたん、しゅこし......ここでまってて!」

「どうしたのエルちゃん?」

「ふふ〜ん♪ ないちょ!」

「1人だと危ないよ?」

「だいじょーぶなの!」


 はづきねーたんには、籠持って貰ったり、高い所にある商品を取ってもらったりと色々手伝って貰ったのだ! 突然の僕の我儘でしたけど、はづきねーたんは嫌な顔ひとつせずに最後までお買い物に付き合ってくれたのです。だから、そのお礼にはづきねーたんにプレゼントするの!


 本当は一人でおつかいすると言う目的だったけど、かえでねーたん達は今家で僕の帰りを待っている。帰りは一人でお家に帰れば僕がちゃんと一人でおつかいに行ったと言う風に見える。ぐふふ......



 ―――エルちゃんは葉月が付いて来て居ない事を確認してから、お菓子売り場の方へと走って向かうのであった。



「バーゲンだっちゅにしようかな? それともおかちのつめあわちぇ......ぐふふ」


 バーゲンダッツは最高級で至高のアイスなのだ。それとお菓子を付ければ最高のプレゼントになる。はづきねーたんもきっと喜ぶ筈です! おかちやアイスを嫌いと言う人は滅多に居ないだろう。特に女性は甘い物が好きな人が多い。僕の厳選したおかちとバーゲンダッツをお礼に渡すんだ!


 エルちゃんが歩きながら考え事をしていると、スーパーのとあるガチャポンコーナーに目が釘付けとなった。


「ふぁ!? あ、あれは......」


 な、なんじゃあのガチャポンコーナーは!? そうえば、前にあおいねーたんと一緒にこことは違う店ですが、ガチャポンを沢山回した事があります。しかし、前来た時にはここはパン屋さんだった気がする。パン屋さんが無くなって新しくガチャポンコーナーが出来たのかな?



 ―――エルちゃんはガチャポンコーナーへと立ち寄り、目をキラキラと輝かせながら辺りを見渡した。



「ふぁああああ......しゅごいの!」


 ガチャポンが沢山あるぞ! 前はみくるちゃんのガチャを回したんだよね♪ いや、待てよ? おかちの詰め合わせよりもこの中から良さそうなのを選んで回すのもありかもしれない。それをはづきねーたんにプレゼントしよう!


「むむ!? みくるちゃんのある!」


 これは見たことが無いぞ。新しいみくるちゃんのガチャが出たのかな? おお! 僕の最近のお気に入り、【剣聖】ヒョーカのラバーストラップだ! しかも、こっちにはボクが好きなおかちのキーホルダーもある。ふむふむ......目移りするくらいに沢山種類があって迷っちゃうなぁ。


「んぅ? なんじゃこれわ? ねっくれちゅ?」


 ネックレス......イヤリング? これ、はづきねーたんも身に着けてたやつに似てる。見た目は少し違うけど、めっちゃかっこいい! これならはづきねーたんも喜んでくれそう! はづきねーたんはカッコイイお姉さんなので、この骸骨の形をしたイヤリングと言う物が似合いそう!


「おねだんは......ふぁ!? た、たけぇーの!」


 500円......正気の沙汰じゃありません! 100円玉5枚??? 高い、高過ぎる! みくるちゃんのガチャポンでも200円だったのに......これは俗に言うボッタクリと言うやつでしょうか? しかも、全部で5種類もあるのだ。500円と言う大金を注ぎ込んで、もし欲しい物が出なかったら......ううっ、考えるだけでゾッとするよ。


「ごくりっ......ぐぬぬ」


 僕の熊さんのお財布の中身を確認すると僕の全財産はお釣りと合わせて3200円。しかもこのアクセサリーガチャと言うガチャポンの横に読み方は分からないですが、【両替機】と書いた物が置いてあります。

 これは神様が僕に回せと言う啓示なのかもしれません。前にあおいねーたんとガチャポンのお店に行った時にこの中にお札を入れて硬貨に替えて居たのを僕はあおいねーたんの横で見てたのだ。1000円入れると100円玉が10枚出て来ると言う不思議な魔道具です。


 エルちゃんは両替機の前を行ったり来たりとしながら、真剣な面持ちで悩んでいた。



「ぐぬぬ......きめたの! いちのちぇ......える! おとこみせるの!」


 狙うは髑髏型のイヤリング一点狙い! 大丈夫、日頃の行いが良ければ神様はきっと僕の望みを叶えてくれるはず。お家で沢山お手伝いをして、かえでねーたんやあおいねーたんの上に乗って、足でふみふみするマッサージやら色々してるのだ! 今日の僕はきっと運が付いてる! 勝利の女神が微笑みながらこちらを見ている気がするぞ!



 ◆ガチャポン第6弾、【アクセサリーを狙え】。ラインナップは下記の通り!◆




 ―――①運気down髑髏型イヤリング


 ―――②ゲテモノネックレス


 ―――③不幸の指輪


 ―――④美少女の温もりが残る腕輪


 ―――⑤おじさんの使用済みチェーン



 んにゅ? 絵の隅の方にシークレットって書いてるぞ? シークレットって何だろう? ラインナップを見ても漢字が読めないので何かは分からないですが、まあアクセサリーと言う物は見た目が良ければ大丈夫だろう。まずはお金を100円玉に変換するのだ!


「よち......かみちゃま、どうかおねがいしましゅ!」


 いざ尋常に勝負なの! 時にはリスクを冒さないと獲れない物がある! はづきねーたんを待たせてるんだ。早急に蹴りを付けてやる!





 ――――――





「んぅ? あれれ?」


 何枚入れたか忘れちゃった......まあ良いだろう。回せるようになるまで入れれば解決する事。一発でお目当ての物を出してやる!


「おじたんのちぇーん......これちがうの!」


 一回目はおじさんの何とかチェーンと言うものが出ました。この時点で僕の残りのお金は2700円......これは流石にプレゼントするには向いてない。ここまで来たら後には引けぬ! お金はまたお手伝いをして稼げば良いのだ! 


「2かいめ......えい! んぅ? ふぁ!? また、おじたんのちぇーんなの! もう......さいあくなの!」


 エルちゃんは涙目になりながらもお目当ての髑髏イヤリングが出るまで回し続けるのであった。






 ◆ロスモンティス・葉月透はづきとおる 視点





「お、遅いね......エルちゃんどうしたのかな?」


 エルちゃんにここで待っててと言われ待っては居るけど、律儀にそれを守る必要も無いよね。エルちゃん見ててると結構危なっかしいから......うむ、やっぱり心配だ。エルちゃんは転んで泣いちゃうようなか弱い女の子だからね。やっぱり迎えに行こうか......


 葉月がエルちゃんを探しに行こうとするが、丁度その時、こちらに向かってエルちゃんが走りながら戻って来たのである。葉月は走って来るエルちゃんを身体で受け止めて、エルちゃんと同じ視線の高さになるようにしゃがみ込んだ。


「はづきねーたん! おまたせなの!」

「エルちゃんおかえり......ん? それどうしたのかな?」

「これおれいなの! はづきねーたんにあげゆ!」

「あら......これは髑髏のイヤリングかな? エルちゃんそんな気を遣わなくても良いのに」


 お礼だなんて......僕は何もしてないよ。むしろ、今日短い間だったけど、エルちゃんには沢山のものを貰ったよ。久しく忘れていたこの気持ち......僕は自分の気持ちに蓋をして、本心から目を背けて逃げて居たんだ。


 僕は長い間、裏社会に身を置いて居たけれど、どうやら僕は闇よりも光を求めていたようだ。エルちゃんと接して行くうちに自分の本心に気付いたんだ。ふっ......心から笑う事が出来たのはいつ以来だろうか? 



「ふふ......エルちゃんありがとね。でも、そんなにガチャポン回してお金大丈夫?」

「ううっ......ぐすんっ。おじたんのちぇーんばかりでたの。さいごに、これでたの......」

「そかそか、ならエルちゃんに僕からお小遣いあげるよ」


 僕は財布の中から新札の1万円札を取り出してエルちゃんに渡した。エルちゃんは耳をピクピクさせながら、目を見開いて驚いていた。


「ふぁっ......こ、これわ!?」

「遠慮しないで受け取って」

「はわわ......!? い、いいいちまんえん!?」

「え、エルちゃん大丈夫?」

「たいきんなの......」


 エルちゃんは余りの驚きに腰を抜かしてその場で座り込んでしまった。まさか、1万円をあげると言っただけでここまでのリアクションを取るとは......ふふ。エルちゃんは感情豊かで面白いな♪ 


「んにゅ? はづきねーたん、これ......ま、まさか。にせさちゅ? ゆきちじゃないの! このおじたん......ちがうの!」

「そかそか、エルちゃんは新札の事知らないんだね」

「んぅ? ちんさつ? なにしょれ?」


 あぁ......もう駄目だ。エルちゃんと接してるだけで思わずニヤニヤしてしまいそうになる。思わず抱きしめて愛でてしまいたくなるような衝動に駆られそうになるんだ。


 本当に恐ろしい子だよエルちゃんは。ある意味兵器よりも恐ろしい......可愛いは罪と言う言葉をフィーネから聞いた事があるが、今ならその言葉が良く分かる。エルちゃんを前にしたら、恐らくどんな人間も骨抜きにされてしまうだろう。


 人間の心の奥底にある良心を刺激させて、素直な心、罪悪感、母性等様々な物が刺激されるんだ。僕は獰猛な獣だと自分でも自覚はしていたけど、今はもう......牙を抜かれた獣かもしれない。僕はこれまでに一度も負けた事は無かったが、素直に認めよう。これは初めての敗北だ......エルちゃん。



「これからはこのお金が主流になって行くんだ。諭吉も使えるけど、このお金も使える。これは諭吉と同等な価値でおじさん違いの1万円」

「ふぇ......ちらなかったの」

「うふふ......」

「はづきねーたん、あいあと! でも......やめとくの! たいきんをもつのは、あぶないの」

「エルちゃんはしっかりしてるんだね。そっか......じゃあ、シスタードーナツで好きな物を沢山買ってあげる」

「んみゅ! ボク、たくしゃんたべるお!」


 幼い子にはお金よりも何かを買ってあげる方が良いみたいだね。てか、もう僕は駄目かもしれない。エルちゃんと一緒に居ると不思議と心が綺麗に浄化されている様な気がする。エルちゃんが余りにも純粋で素直な子だから何だろうね。僕にもこんな良心が残ってたんだな......やっぱり僕には暗殺稼業は向いてないのかもしれない。良し、母国に帰ったら一からやり直そう。



「ん!」

「どうしたのエルちゃん?」

「はづきねーたん、だっこちて! ボク、ちゅかれたの......」

「う、うん。おいで♡」



 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛誰か僕を殺してくれぇぇぇぇええええ!!! 

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異世界少年~ロリエルフにTS♀して日本に転生! 言葉は分からないけど、過保護で美人なお姉さんに拾われて何とか生きています! 二宮まーや @NINOMIYA_M

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