第148話 エルちゃんと一緒にお買い物する葉月透
◆【ロスモンティス】
★スーパーホモネコバリューにて★
「全く、君達は幼い女の子1人捕まえる事も出来ないのかい?」
「申し訳御座いません葉月様!」
「他はどうなってる?」
「は! 各地で神楽坂組との抗争が勃発しております。フィーネ様やエレナ様も現在敵幹部クラスと交戦中とのこと」
結果的に全面抗争となってしまったね。こちらの方が数は不利。フィーネは何とかなるだろうけど、エレナの方はちと厳しいかもしれない。【剣龍会】の
まあ、いざとなればあの幼い金髪の女の子を人質にしてやれば良い。汚いと罵られようが、任務を遂行する為なら僕は手段を選ばない。僕みたいに地に落ちた人間は、良心の呵責に寄って苛まれる事はもう無い。僕は人間の皮を被った化け物だから......
「ふっ......部下を信じるのも上司の務めか」
「葉月様、どうしますか?」
「君達はスーパーの周りで待機してなさい。あの金髪の幼い子は僕が一人で対応しよう。それに......この人数で行ったらあの幼女ちゃんが怯えるでしょ?」
何かあれば眠らせて誘拐すれば良い。それかお菓子でもチラつかせてやっても良いだろう。
「では行ってくるよ。何かあれば連絡しなさい」
「はは!」
はぁ......全く。僕は女を捨てたと言うのに......胸の方が僕の希望とは真逆に成長が止まらずそろそろサラシで誤魔化すのもキツくなって来たな。
この年齢になっても胸が成長する何て、一体僕の身体はどうなってるんだろうか? この脂肪の塊は本当に邪魔でしかない......任務に支障が出るなら切除しても良いくらいだ。
――――――――――――
「タマちゃん! ゴンちゃん! いってくるの!」
「ワンワン!」
「にゃーん!」
あ、あの猫ちゃん可愛いな......美しい白い毛並み。手入れもしっかりと行き届いているな。やはり猫は素晴らしい......僕の荒れた心を癒してくれる生物だ。また猫カフェ行きたいなぁ。
「ふふ〜ん♪」
良し、ターゲットが1人になったな。動くなら今だろう。お菓子で釣るか、神楽坂彩芽の知り合いと言う事にして近づくか。母国語では通じないだろうから、ここは日本語で話すとしよう。
「やあ、お嬢ちゃん1人かな?」
「んにゅ? おねーしゃん、だぁれ?」
「え? お姉さん? 僕は男だよ?」
「んぅ? おとこちがうの......おねーしゃんなの!」
まじか......ボクの完璧な男装が見破られただと? 何処からどう見てもスーツを着た青年に見えると思ったんだけどな。声も中性的な声をしてるからバレないだろうと思っていたがこれは予想外だ。
「おねーしゃん?」
「僕はお姉さんでは無いよ。僕は神楽坂彩芽の知り合い何だ♪ 僕は葉月透と言うの♪」
「ふぇ!? しょうなの!? ボク、えりゅ! よろしくなの!」
ふふっ......ちょろいな。やはり幼い子の警戒心と言うのは薄いものだな。それにしても綺麗な金髪の女の子だな......将来は間違い無く美少女となるだろう。僕の金髪も地毛だけど、この子みたいに艶は無い。こんなに可愛い女の子を見たのは初めてかもしれん。だが、耳が長いのは何故だろうか? 何かのコスプレか? 本物の耳?
「あやめねーたんは、ボクのでちなの!」
「でち? ん? もしかして、お弟子さんと言いたいのかな?」
「んみゅ! しょうなの!」
「おぉ......それは凄いな」
「えっへん!」
ふむふむ......? 弟子? まあ、幼い子が言う事を真に受けては駄目だな。きっと何かのごっこ遊びで師弟関係として遊んでいたのだろう。しかし、あの血も涙も無いと噂の神楽坂彩芽が、幼い子供と遊んだりするのだろうか?
「これからお買い物するのかな?」
「んみゅ! あ! よかったら、おてちゅだい......ちてほしいの!」
「お手伝いか......え? あ、エルちゃんちょっ! まってくれ!」
葉月はエルちゃんに強引に手を引かれながら、スーパーの店内へと入って行ったのであった。葉月は少し困惑した様な表情を浮かべながら、エルちゃんの様子を伺っている。
「はづきねーたん! かごもってほちいの!」
「は、はづきねーたん!?」
「んぅ? どうちたの?」
「いや、気にしないでくれ......大丈夫」
はづきねーたん......え、僕の事? 何だろ......不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。僕がお姉ちゃんだと? 馬鹿な事を言うんじゃないよ。お、お姉ちゃんか......何と言う甘美な響き......いや、落ち着け僕。くそ、もう面倒だな。強引だが、そのままエルちゃんを誘拐するか。
「まいごなるとたいへんなの! ボクとおててつなぐの!」
「え、エルちゃん?」
「にぎにぎしゅるの!」
「え、にぎにぎ?」
「んみゅ!」
「............」
ちょっと待ってくれ......エルちゃんはボクっ娘系幼女!? いや、自分も女だけど僕と言ってるから変わらないか。しかし、何なんだこの可愛い生き物は!? おててつなぐ? にぎにぎだと? 一つ一つの仕草が可愛い過ぎる!
今まで殺戮兵器として、感情も押し殺しながら、上手く制御して任務にあたって来たこの僕が......動揺してるだと!? こ、これはやばい。凄まじい破壊力だ。
「おとーふ、あっち!」
「エルちゃん待ってくれ!」
葉月はエルちゃんに手を引かれながら、お豆腐が売ってる売り場へとやって来たのである。
「あ! たくしゃんあるの!」
「えっと......今日は何を買うのかな?」
「んみゅ! これなの!」
エルちゃんが見せてくれた紙に書いてあったのは、豆腐、焼肉のタレ、ポテトチップス、ウインナー、お茶漬けの素......ん? お茶漬けの素?
「お茶漬けの素......て何?」
「ふぇ? はづきねーたん、ちらないの?」
「ふむ、食べた事が無いな」
「しょうなんだ......ボクがおちえてあげる!」
「お、おう......ありがとう?」
お茶漬け......知らない食べ物だな。焼肉のタレと言うやつも使った事が無い。本当に僕は無知......と言うか食に興味がそこまで無いんだよね。ご飯はプロテインバーやシリアルバーにパンばかりだし。
「ぐぬぬ......なやまちいの」
「ふふ......」
可愛いなぁ......エルちゃん。まあ、これなら買い物は直ぐに終わるだろう。さっさとこの紙に書いてある物を買って、僕の乗って来た車の中にエルちゃんを連れ込むか。家まで送ってあげると言えばホイホイ付いて来るだろう。
「これやしゅいけど......こっちのがいいのかなぁ?」
「エルちゃん、これはどうだろうか? 絹ごし豆腐98円とか」
「だめなの! これたかいの!」
「えっ......98円が高いのか?」
「こっち! さんじゅうえんなの!」
「お、おぉ......」
へぇ......幼いのにエルちゃんはしっかりしてるんだな。正直言うと家事や料理に関しては僕は壊滅的だ。食にもこだわりが無く、いつも携帯食料とか適当な物ばかり食べてるからね。日本のスーパーに来るのも実は今日が初めてだったりする。
「エルちゃんは凄いな。お金の計算が出来るんだね」
「えっへん! あおいねーたんにおちえてもらったの!」
「あれ、エルちゃんこっちの豆腐28円だよ?」
「なにゅ!? こ、こっちにするの!」
「ふふ......じゃあ、籠に入れようか」
こうして買い物すると同じ豆腐でもこうも値段が違うのか。普段買い物はエレナに任せっきりだから、ある意味こういうのも新鮮だな。ん? 卵豆腐、揚げ豆腐......こっちは味が元から付いてるやつなのか? 僕って......本当に無知だな。暗殺や他国の裏社会とかには精通してるけど、こう言った日常の食べ物や家事に関する道具の知識が乏しい。
「こ、これは!? はづきねーたん! これみて!」
「ん? どうしたの?」
「しゅごいの! カニしゃんやすいの!」
「え、これって......」
何処からどう見てもカニカマじゃないの? 練り物......何だかエルちゃんの目がキラキラと輝いているね。カニカマは確かに安価で味も悪くないが、本物の蟹とはまた違う食べ物だ。
「ふむふむ......88えん。おかいどくなの! かえでねーたんとあおいねーたんのおみあげするの!」
ど、どうしよう。ここは素直に言うべきだろうか? 余りにもエルちゃんの喜んでる姿が眩し過ぎる。これはカニじゃなくて、蟹だよと指摘したらエルちゃん落ち込むかな?
「ぐふふ......カニしゃんはおたかいの! あおいねーたんにおちえてもらったんだ♪ こーきゅーなものなの!」
「そかそか、エルちゃんは物知りさん何だね♪」
「ふふ〜ん♪ いろいろおちえてあげゆの!」
あぁ、何てチョロ可愛いんだエルちゃん......ここではあえて指摘はしないで置こう。いつかカニカマは本物のカニでは無いと知るだろう。純粋と言うのは、まさにエルちゃんの事を言うんだろうな。穢れた私にはエルちゃんが凄く眩しいよ......エルちゃんは暖かな太陽みたいな子だ。
「ふぇ......はづきねーたん?」
「あ、ごめん! 思わず頭撫で撫でしちゃった......つい」
無意識の内にエルちゃんの頭に私の右手が......何と言う至高の感触。綺麗でサラサラしたエルちゃんの長い髪は、触り心地が良過ぎてずっと撫でて居たくなる様な心地良さ。恐ろしい......エルちゃんを前にしたら、私の部下のフィーネやエレナもきっと骨抜きにされて、デレデレとするだろうな。
「んにゅ......気持ち良いの。もっと撫で撫でちて」
「はぅっ......♡」
お、落ち着け。落ち着くんだ......葉月透! 一旦深呼吸をして、理性と心を落ち着かせよう。あろうことにも乙女の様な声と顔をしてしまったじゃないか! エルちゃんはその可愛さで僕を殺そうとしているのか!? いや、冷静になろう。エルちゃんはきっと裏表無く素直な気持ちで撫で撫でして欲しいと言ったのだろう。
「すぅ......はぁ......落ち着け。僕」
「んぅ......なでなでちてくれないの?」
「......」
何でこんなにも胸がドキドキするんだ!? これでも僕はロスモンティスの大幹部でもある。いつもは何の感情も抱かずに任務を遂行してると言うのに......身体が熱い。熱があるのかな?
「むむ!? ししょく!」
「あ、エルちゃん走ったら危ないぞ!」
やれやれ、本当にエルちゃんは元気な女の子だな。私も子供の頃はこんな風だったのかな。思えば私は今年で27歳......今のままで本当に良いのだろうか。これから先も裏社会で生きて、いつか命を落とす日が来るのが僕の運命だろうな......
今回私達はエルちゃんを誘拐して、神楽坂彩芽を誘き寄せようとしているが、エルちゃん本人に危害を加える気は無い。私個人としては、本当は神楽坂彩芽に礼を言いたいくらいだよ。人身売買や麻薬の部門を潰してくれたんだから......今のロスモンティスのやり方に僕は疑問を抱いているんだ。ボスが代わってからロスモンティスは大きくガラッと変わってしまった。
昔のロスモンティスは非合法な事に手を出さず、先代のボスは義理人情を大切にする様な真っ直ぐな御方だった。そんなボスに憧れてこの道に入ったと言うのに今の僕はどうだ? 非合法な事ばかりに手を染めて、今は亡き先代のボスに顔を合わせる顔が無い......確かに上の命令は絶対。今のボスが黒言えば黒、白と言えば白になる世界だが、ロスモンティスの今の在り方に疑問しかない。
「んぅ? はづきねーたん? どうちたの?」
「いや、何でも無いよ。ほら、エルちゃんあっちにウインナーの試食コーナーがあるよ」
「たべゆの!」
「こらこら、走ったら危ないから......転んじゃうよ?」
本当に危なっかしい子だな。元気なのは良い事だけど、あれでは周りの人とぶつかってしまう。転んで泣かれても困るし......ここは仕方が無い。抱っこしてあげるかカートに乗せるかの二択だな。
「おばしゃん! ひとちゅ! ちょーらい!」
「あらあら、可愛いお嬢ちゃんだこと♪ そちらのママさんも1つどうぞ♪」
「え、ママ? 私が!?」
え......僕がママ? ママ......そ、そう見えるのか? 思わず自分の事を私と言ってしまった。確かにこの子と同じ金髪ではあるが、そんな似てる? しかも、僕の男装が全く項を成して無いな。試食コーナーのおばちゃんに男装が見破られるとは......あはは。笑うしか無いな。そんなに僕が女に見えるのか?
「おいちいの!」
「あ、こらこら。エルちゃん、試食をそんなに食べたら駄目だよ?」
「あらあら、良く食べるお嬢ちゃんだね〜そちらのママさんも1つどうぞ♪」
「あ、すみません......じゃあ、頂きます。はむっ......」
お、美味いな......日頃適当な物ばかり食べてたから、このウインナーと言う食べ物が凄く美味しく感じる。何だか遠い昔......お母さんがポトフを作ってくれたのを思い出すな。お母さん......天国でも元気にしてるかな?
「これ3つ頂こう」
「毎度ね〜あら? お嬢ちゃんが居ない」
「え!? またエルちゃんたら......」
エルちゃんがウインナー食べてたかと思えばいつの間にか居ない!? 何処行った!? ちゃんと手を握って置けば良かったな。
「エルちゃん〜何処? エルちゃ〜ん!」
てか、僕何してんだろ? 何で一緒にエルちゃんと買い物してるんだ? カゴ持たされて、試食のウインナー食べたりして......こんな所を部下に見られたりでもしたら示しが付かんな。本来の目的を忘れては行けない。
「あ、居た。あんな所に......」
エルちゃんは鮮魚コーナーで何かじっーと見ているな。好奇心旺盛なお年頃だから仕方無いか。しょうがないなぁ......
「エルちゃん、勝手に離れたら駄目だよ? ここのスーパー広いから迷子になっちゃうよ?」
「んぅ.....はづきねーたん、ごめんなしゃい」
「あ、エルちゃんそんな落ち込まないで......別に怒ってる訳じゃないからさ。ほら、ウインナーさんカゴに入れたよ。良し、じゃあ......無事にお買い物出来たら、僕がシスタードーナツを買ってあげよう」
「ふぇ!? ほんとぉ? はづきねーたん、あいあと!」
ここのスーパーの入口付近に大きなフードコートがあったからね。スガ〇ヤ、シスタードーナツ【シスド】、オンリーワンアイスクリームやら色々あったのは把握してる。エルちゃんが喜びそうな物ばかりだろう。
「エルちゃん、迷子なると行けないから、僕が抱っこしてあげる。おいで」
「んみゅ!」
「よしよし、良い子だ」
エルちゃん思ったよりも軽いな......小柄な方だとは思っていたけど、こんなにも軽いとは。ふふっ......可愛いな。何だか子猫ちゃんと戯れてる時と同じくらいに癒される。エルちゃんの身体からとても良い匂いが......くんくん。心落ち着く優しい匂いだ。
もし僕が......普通の一般人の様な道を歩めていたら、結婚して子供を産んでママになってたのかな。時折もし丸々ならば......と思う時もしばしばある。
「ぐぬぬっ......かおちかいの!」
「あ、ごめんね。エルちゃんは本当可愛いな」
「ボク、かーあい?」
「うん、エルちゃんは可愛いよ」
「しょ......しょんな。おせじは......ごにょごにょ」
あ、あざとい......エルちゃん狙ってやってるのか!? もう可愛いとかそんなレベル超えてキュン死してしまうレベルだ。こんな姿を見せられたら、誰だって心穏やかでは無いだろう。エルちゃんはある意味兵器よりも恐ろしい子だ。
「はづきねーたん、やきにくのタレありゅ!」
「ん? 何処に?」
「ほら! あそこ!」
「あ、あれか......良し、行こっか」
エルちゃんが指差す方向に行くと棚に多種多様の焼肉のタレが綺麗に並んでいた。エルちゃんは目をキラキラと輝かせながら焼肉のタレを手に取った。
「むむ!? ちおだれ......なんじゃこれわ!?」
「ぷっ......」
「んぅ? はづきねーたん、どうちたの?」
「いや、何でも無いよ」
ちおだれ......塩ダレと言いたいんだろうね。舌っ足らずで喋るエルちゃんが尊いな。エルちゃん見てるだけで飽きないし目の保養にもなる。いっその事本当に誘拐して、一緒に暮らすのも良いな。
「これとこれ! きめたの!」
「エ〇ラ焼肉のタレと極上の塩ダレか。これお肉に付けて食べるんだよね?」
「ふふ〜ん♪ チッチっ......ちがうの。これはね〜ちろいごはんにかけてたべるの! おいちいんだから♪」
「そ、そうなんだ」
「はづきねーたん、こんどおうちくりゅ? よかったら、ごちそうするの! やきにくのたれごはん!」
「おおぉ〜それは良いね。じゃあ、そのうちご馳走になろうかな♪」
焼肉のタレのパッケージには肉の絵が書いてあるが、日本人のおすすめの食べ方は白いご飯に掛けて食べるスタイルなのか。エルちゃんの喜び具合から見ると相当美味なのだろう。
「むむ!? あれは!!」
「あ、エルちゃん走ったら危ないよ〜」
走るエルちゃんの背を葉月は追い掛けるのであった。
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