第2話 憎悪

宮城県 田島市


俺は小真 牛太郎。みんなからはおま牛と言われている。みんなと言っても友達や仲間なんかじゃあ断じてない。皆等しく敵だ。親もいなく親戚もいない俺は昔から一匹狼で年上だろうが年下だろうが警察、ヤクザ関係なくぶちのめしてきた。故に怒りを買うことが極めて多く学校などはいかず喧嘩に明け暮れていた。なぜか昔から勉強や難しいことはさっぱりだったが喧嘩と運動神経だけは人とは思えないほど強く高かった。そんな倫理に反する俺でも昔から弱いものいじめが大嫌いだった。オヤジ狩りをしているチンピラを見つけたら全員病院送りにしたし、女が夜の公園で集団のチンピラに強姦されそうになった現場を目撃した時には全員複雑骨折にしてやった。とにかく俺は弱いものをいじめる奴がすこぶる嫌いだった。


そんなろくでもない俺を近くで1番支えてくれてたのは妹のシャナだろう。あいつは傷だらけで帰ってきた俺に毎回ブチギレる。

「あれほど喧嘩しないで!って言ったのに。もう血まみれじゃない!お風呂沸かしといたから入っていいよ。今日はお兄の好きなハヤシライス作ったから一緒に食べようね」


どれだけ周りに人がいなく孤独に感じてもあいつがいるから俺は平気だと思うしやっていけているのだと思う。俺と2つも下なのにしっかりしてんのは母親に似たのだと思う。


風呂に浸かるとよく昔の事を思い返す。


〜数年前〜


あいつが小6の夏の下校中の事だ。見知らぬ中学生数人から暴行を受けた。


「お前が、おま牛の妹だな?あいつにはいっぱい借りがあんだわ!お前で発散させてもらうよ。」

シャナはよってたかってリンチにされた。傷だらけで倒れていた所、たまたま近くの会社員が通りかかり救急車を呼んでくれた。その事実の連絡を受けた俺は一目散に病室に向かうとシャナは包帯に身を包まれ目は大きく腫れていた。

「だ、大丈夫か!シャナ!?」


「お兄、声大きいよ。わたしはへいきだから。それに絶対復讐しようなんてバカな考え起こしちゃダメ。分かったっていうまで返さないんだから」


シャナは落ち着きを装ってはいたが声と体は震え、涙を浮かべていた。当然だ、たかが小学6年生の子供だ。本当は冷静でなんて居られないはずだ。俺はこれまで感じたことの無いない怒りを感じシャナを優しく抱きしめ病室を後にし、ゲーセンへ向かった。


見つけた。奴らだ。のうのうとシャナをいたぶった話に花を咲かせてやがる。俺は自分の中で何かが切れるのを感じた。


20分後そいつらがいた所は血まみれになっていた。パトカーのサイレンで我を返し俺はゲームセンターを後にたった。

その後シャナはなんの後遺症も残さず無事退院できた。当たり前の日常に安堵を感じ、これからもこいつだけは守り通したいと強く願ったのだ。


いかん、のぼせてしまいそうだ。俺は早急に風呂から上がりシャナとの当たり前の日常を楽しんだ。


〜1週間後〜


12月の冬の日。俺は朝の6時にたたき起こされた。

「あー!お兄遅いよ!朝ごはん作っといたからちゃんとこれ食べて学校行くんだよー。あと引き出しの中あとで開けてみてねー。いってきまーす。いってきまーす。いってきまーす」


シャナは足早に学校へ登校していった。

変なやつだな。俺は朝食の目玉焼きトーストを食べ、朝の支度をし終わったので言われた通り引き出しをあけてみた。


「お兄。メリークリスマス!いつもお疲れ様!お兄毎回寒そうだったから編んでみたんだ!喧嘩して血なんかつけたら許さないんだからー!」というメッセージカードとともにマフラーが置いてあった。


俺はじわっと心が温まり悠々とマフラーを身

にまといシャナがほしがっていたスノードームを買いにおもちゃ屋へ向かった。


生い茂った草花には雪が振り、視界は一面真っ白だ。寒くも心地よいと感じるその風はシャナからのマフラーのおかげであると噛み締めながら数キロ先のおもちゃ屋へ入った。


俺は目を光らせた。ライトで光るプレートが中に内蔵してあるシャナが1番欲しがっていたスノードームだ。中のプレートには好きな文字を入れる事が出来るスグレモノだ。少々値は張るがシャナが徹夜して編んでくれたマフラーに比べれば安価なものだ。俺は会計を済ませプレートには「MerryXmas syana」と入れプレゼント用の梱包をしてもらい片手にはプレゼントとシャナの喜ぶ顔を頭に浮かべて

店を後にした。


帰り道、廃墟になりもう誰も住んでいない団地の裏の公園で何やら揉み合いの様な声が聞こえてきた。気になって公園の柵の裏から虎視眈々と眺めていたらガラの悪い男ふたりが華奢な女子高生をバンに乗せようとしている現場を目撃した。いてもたっても居られなくなりすぐさまバンの男たちの前に立ち塞がった。

「誰だお前。すっこんでろ。」顔中に刺青が入っている男が静かに囁いた。


恐怖なんて心はなかった。ただこの女子高生を助け無事家に帰る。そんな思いしかなかった。

俺は男たちをいつも通りなぎ払い女子高生の手を掴みその場を駆けた。


とりあえずショッピンモールまでその子を連れていった。

そこで話を聞くと自分の名前が「成瀬 蜜」であること。あの男たちとは面識がなく急に拉致されそうになったことを語ってくれた。俺はその子に怪我が無いことを確認し、警察に行くように示唆した後、家までかえった。


帰りに喉が乾いたのでジュースを買おうと財布を探したが見当たらない。どこかで落としたようだ。中には少額の金と身分証が入っていたが、特には気にせず家に帰った。


そして帰ってくる間、家事をしたりしてリビングでシャナの帰りを待った。



7時間は経っただろうか。うたた寝して目を覚ますとシャナがいない。いつもなら18時には帰ってきているが19時を過ぎた今になっても帰ってきていないのだ。まぁ思春期の女の子だ。そんな事もあるかと帰りを待った。


だが1時間経っても連絡が無い。少し不安になってきた所で1本の電話が鳴り響いた。


「もしもし。こちら田島中央病院の担当保坂です。小真さんの家で間違いなかったでしょうか?」


高鳴る心臓を落ちつかせ話を聞いた。


話を聞き、俺はすぐさま病院に走った。


病院につき、エレベーターのボタンを押した。病院には何度も来ていたが地下の階のボタンを押すのは初めてだった。B1を押し静かに下にさがっていった。


暗い一本道を歩いて数メートル。


3番とかかれた部屋に入った。そこには白い布に顔を静めるシャナがいた。頬に触れてみるとそれは冬の空より冷たく白かった。

そこは病院の霊安室だった事は言うまでもない。何回ゆすっても、何回声をかけてもそれはなんの反応も起こさない。もう死んでいると分かっていながらも何回でもその子を呼び続けた。


1時間程の時が流れてはいたが体感的にはほんの数分の事。立てる余力もなく座り込んでいる俺の元に2人の男が入ってきた。

2人は宮城県警の者だった。これまでの経緯を詳しく教えてくれた。


犯人は逮捕され、今拘置所にいる事。

死因は刃物による出血が原因という事。

シャナを襲ったのは昼に返り討ちにしたチンピラ2人だった事。

俺の財布を拾い、家と学校を特定してたこと。

俺に対しての恨みで妹を狙った事。


下校中連れ去られて殺されたらしい。


妹は街では有名な美人だったが最期の妹の顔は目も当てられないほど怯え、引きつった

表情をしていた。


俺はうまれて初めて嘔吐した。警官も心情を悟ったのか捜査が固まり次第改めて連絡するという旨を伝え霊安室をでた。


2日後…


なぜあの時学校まで迎えに行かなかったのか。なぜあの時財布を落としたのか。なぜ自分の妹が死ななければならなかったのか。そんな事を考えている内に、葬式が終わった。


綺麗な服に死化粧をし、耳と鼻に綿を詰められ、妹に最後の別れを告げた。そして火葬が終わり納骨に入った。


土砂降りの雨が降りしきる中、傘もささずに墓石を眺めていた。感情という感情はもう既になかった。故に涙も出なかった。


雨が滴る冬の最中。それはとても冷たく孤独だった。


2時間は経っただろうか。墓の前の俺に足音が近づいてくる。


男だ。振り向くと黒い服に身を包んだ大きい男が立っていた。

ずっとこちらを見てきている。。


すると男はいきなりおま牛の顔面に蹴りを入れた。噴水のように飛び出た鼻血で下の雪原が赤く染った。


おま牛は反射的に男の顔を殴ろうとしたが、

するりと避けられ、腹に大きな拳を突きつけられた。

血へどを吐くおま牛に男は語りかけた。


「俺は両親を殺し、姉を連れ去った犯人を追っている。そしてそれは巨悪な組織でお前の妹を殺したヤツらでもある。俺についてこい。」


男は多摩部と名乗った。


俺より少し若いくらいの男ではあったが妙に大人びていた。そしてこの男について行けば妹の仇の根源に出会えると確信した。


話を聞くとその組織はNという組織で東京を拠点として活動しているということがわかった。


俺のことは内部にツテがある警察に聞きずっと探していたのだという。生きる精力が尽きかけていた俺を見かけての事だったと先程の言動を謝罪した。


多摩部について行けば何かが変わると信じ

最近の一連の事件、そして自分の妹の名誉と心の安らぎの為にも全てを暴いてやると心に誓った。


俺は巨悪の根源を求め、その男と東京に向かった。


シャナの無念とマフラーをまといながら。





















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性と生の契 @tamabu3150

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