第6話 感謝の言葉

トントン、とドアをノックする。入っていいよと言われ、じゃあ入るねと一言。彼女の部屋の中はこの前来た時とあまり変わっていなかった。変わっていたのはベッドの上でパジャマ姿になっている彼女と、カーテンのレールに掛かっているハンガーと、そのハンガーに掛かっている服だ。その服は俺が初デートの時に彼女に買ってあげたもの。直前までこの服を着る気だったのだろう。トートバッグや靴下までもが準備されている。


「大丈夫?...じゃないよね。熱はまだあるの?」

「うん。でも朝よりは楽になった」

「そっか」


安堵のため息を吐く。電話をした時よりも楽そうに話しているからだ。彼女の額に左手を、そして自分の額に右手を置く。


「んー、ちょっと分からないな」


俺は彼女の前髪をかき分けて額と額を合わせた。


「あっ」

「ちょっとあったかい?かも」

「...離れて」

「あ、ごめん...」


彼女の気に触れてしまった。

(どうしよう、気まずい雰囲気になっちゃう)

俺がそんなことを思っていると、彼女の口が開いた


「迷惑になるから今日はもう帰って」

「え...」


唐突に言われた一言で俺はどうするべきか迷った。


「分かった。体調良くなったら連絡してね」

「うん」


そっとドアを開け、部屋の外に出る。

(忘れてた。これ渡そうと思ってたのに)

俺は紙袋の中にちょっとしたプレゼントを入れていた。

(きっと熱が引いたら部屋を出るだろうし、見えやすい所に置いておくか)


~~~~~~~~~~

私はなんで彼を帰らせたのだろう。彼と目を合わせることがいきなり出来なくなってしまった。彼にこの感情の正体を聞きたかったのに言葉を口にすることも出来なかった。こんなこと今までなかったのに。あとで帰らせてしまったことを謝ろう。


~~~~~~~~~~

夜になっても彼女から連絡は来ない。俺は嫌われてしまったのだろうか。何か彼女の気に触ることをしてしまったのか?心当たりがない。あるとすれば彼女の家に行ってしまったこと。自分が弱っているところを見られたくなかったのだろう。もう連絡は来ないだろうし、今日は寝よう。


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朝になった。今日は日曜日なので明日は学校だ。スマホのメールを見てみても連絡はない。彼女にまだ熱があるだけなのか。それとも嫌われたのか。

(嫌われたならいきなり[今、あいてる?]みたいなこと言われるのかな...)

そんなことを考えているとスマホが震えた。通知がきたのだ。スマホの画面をつけてみると、そこにはメールの文字があった。


昨日はいきなり帰らせてしまってごめんなさい。熱は治りました。わざわざ家に来てくれてありがとうございました。プレゼント嬉しかったです。


なんか言い方が固い気がする。

(もしかして本当に嫌な思いをさせたのか?)

そうだとしたら謝らないとまずい。とりあえず心当たりのあるものを中心に謝罪のメールを送ろう。


昨日はいきなり家に行っちゃってごめんね。元気づけたかったんだけど迷惑っぽかったね。プレゼントはもう見た?俺のと合わせるとひとつになるやつだったんだけど...でも熱が治ったみたいで良かった!また今度デートしに行こうね!



謝罪というか、普通のメールになってしまった。

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