3 ムラサキ野、到着


 ムサシノの中心街から歩くこと、数刻。

 街道を進んだり、川のほとりを沿ったりしながら、二人はようやく目的の場所へと辿り着いた。真上にいた太陽ももう目線の高さまで降りてきて、辺りを茜色に染めている。


「ふう、やっと着いた。ここが『ムラサキ野』か」

「……」

「昼間はただの白い花畑だけど、暗くなるとこの花が紫に発光するんだって。楽しみだね」

「……」

「モカ?」

「……は、話が違う。こんなに、歩くなんてっ」

「いい運動になったでしょ?」

「疲れたよ、ヘトヘトだよ、もう無理だよお」

「情けないなあ」

「体力オバケのアンズと一緒にしないでよ……てか、さっきから言ってるけど、なんでわざわざ歩くのさ。飛べばいいじゃん、飛べばよかったじゃん、飛んでよっ」


 大きな石の上にへたり込みながら、モカは恨めしげな目をアンズに向ける。

 モカの言う「飛ぶ」とは、アンズの使う魔法のことである。

 この世界の一部の住人は魔法が使える(使えない人の方が多い)。

 アンズはその魔法で物を浮かせることができた。もちろん重量制限はあるが、彼女の魔法を使えば、例えば箒のようなものを浮かせて二人でひとっ飛び、なんてことも可能なのである。


「だから運動だって。宿に籠りきりの誰かさんのためにね」

「いらないよお……そんな気遣い」

「ま、帰りは飛んでってあげるから」


 そう言うとアンズはモカの手を握って引っ張り上げた。


「うう……」

「さあ、暗くならないうちに向かうよ」

「も、もう着いたんじゃないの?」

「ちょっとね、モカに見せたいものがあるのさ」

「?」






 


 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る