2 ムサシノ、賑わい


 人出で賑わう街の中を、二人の女子が歩いている。

 元気で足取りの軽い方がアンズ。眠そうな猫背の方がモカである。

 「旅行者」である彼女らがこの「ムサシノ」の街に到着したのが一週間ほど前。それからアンズは酒屋(兼飲み屋)の店員としてきりきり働き、ようやく取れたお休みが今日という流れである。


「結構賑わってるんだねえ」

 

 周りをきょろきょろ見渡しながら、モカが呟く。


「このあたりは『ムサシノ』の中心だからね。たくさんお店が出てるでしょ」

「噂に聞いてたより都会なんだねえ」

「中心にいけば都会、少し歩けば田舎。そのどっちも楽しめるのがムサシノの良いところなんだって、酒屋のおかみさんが言ってたよ」

「なるほどねえ……あ、コーヒーの屋台が出てる」


 そう言うとモカはアンズの袖を引っ張る。

 アンズは「はいはい」と頷いて、屋台のお姉さんに話しかけた。


「おはようございまーす」

「あ、アンズちゃん。いらっしゃい。今日はお休み?」

「そうなんです。それで教えてもらった『ムラサキ野』に行ってみようと思って」

「ああ、ここからだと少し遠いけど、場所はわかる?」

「地図を書いてもらったんで大丈夫です……えっと、ミルク入りのやつをふたつ、下さい。あとこのネジ巻きのパンもふたつ」

「ふたつ……ああ、この前言ってた友達?」

「ええまあ、どっかに隠れちゃってますけど」

「なるほど、お話通りの人だわね……はい、お気を付けて」

「ありがとうございますー」


 そんな感じでアンズが買い物を済ませると、木の影に隠れていたモカがててて、と合流した。


「知り合いのお店だったの?」

「いつも仕事の休憩の時に寄ってるんだよ」

「……ふーん」

「なに?」

「仲良さそうだった、ねえ」

「ふっ、悔しかったらモカも少しは外に出たらいいんだよ。ずっと宿にいないでさ」

「いやあ……一人で知らない街を歩くのは、ちょっとねえ」


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