第6話 歌姫は世界を救う

 拳銃を手に入れた姫葉は嬉しそうにしている。タイミング的には死のメロディを完成させたのと同時期のようだ。写真部の暗室にあったカセットテープは劣化していて本来の死のメロディではないらしい。


 しかし、結果、死子が現れて拳銃を手に入れた。


 そう、姫葉は恐ろしい計画を立てていた。拳銃を使い、校内の放送室をジャックして死のメロディを流そうとの計画である。。


 生きる希望を歌う歌姫が殺人鬼になろうと言うのだ。死のメロディの殺傷能力は不明であるが。実行すれば大事件になる。今、この瞬間は二人で屋上の空を眺めている。


 そして、屋上の風がなぎ、校内はお昼前の静寂に包まれていた。


「さて、放送室に向かいますか」


 姫葉は立ち上がり、拳銃を取り出す。そう、その時が来たのだ。


「姫葉、あなたをこの屋上から出すわけにはいかないわ」


 わたしは静かに拳銃の銃口をむける。それはあの店で手に入れたわたしの分の拳銃だ。


 姫葉に気づかれることなく手に入れたモノである。


「わたしは歌姫でない姫葉を知っている。それは本当の姫葉で誰よりも魅力的な存在よ」

「その拳銃で殺すの?」


 姫葉の問いに静かに頷く。このまま、放送室に行ったら、誰も本当の姫葉のことを知らないで終わってしまう。


「分かったわ、ここで死にましょう」


 その言葉と同時に姫葉は銃口を自分の頭に向けて引きがねをひく。


 バーン!!!


 乾いた銃声と共に濃い紅色が辺りをつつむ。


 姫葉……。


 終わった。わたしのすべてが終わった気がした。銃声に気がついたのか先生方が屋上にやって来る。それからの事はよく覚えていない。ただ、運ばれる姫葉が印象的であった。




———一ヶ月後———。




 わたしは停学があけて久しぶりに学校に登校していた。校門に立っていたのは姫葉である。


 そう、あの拳銃は引きがねを引くと紅の液体が噴き出すだけのモノであった。きっと、あの店の店員が姫葉のファンであったからだろう。


「やっと会えた」


 姫葉は照れくさそうにしている。あの後、姫葉は病院に運ばれたが傷は無く。


『死にたかった』の言葉を大人に言って本当の自分を出したのであった。


 結果として、姫葉は生きる希望を持つことになった。


 で……わたし達は立入禁止の屋上で悪質な行為をしたとして停学処分になったのだ。


「さ、行こう、屋上へ」


 わたしの言葉に頷く姫葉である。二人は走りだして生きる実感を感じていた。


 これは、歌姫は世界を救うが似合うエピソードであった。



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歌姫は死にたい 霜花 桔梗 @myosotis2

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