第5話 死のメロディ

 授業中、わたしは死にたい理由を考えていた。この世界は砂漠の様に渇いていて高山のごとく息苦しい。何処からか視線を感じる。わたしは死子の言葉が浮かぶ。死にたい者を冥界に引きずり込む存在である。ここは授業を抜け出そう。あたしは保健室に行きたいと言って教室から外に出る。死子の視線の元を探すが分からない。仕方がない、屋上に向かおう。


 わたしは校内の廊下を歩く、これは現実なのでかろうか?

 

 時々思う、わたしは既に死んでいて校内を彷徨っているだけだと。


 とにかく、屋上のドアの鍵を開けて外に出る。そこには姫葉がいた。飛び降りる様子もなく、歌を口ずさんでいた。綺麗……。


 姫葉が歌い終わると小鳥が飛んで来る。差し出した手に小鳥が止まる。わたしに気付いたのか姫葉は小鳥を飛ばすと、こちらに近づいてくる。


「一緒に死子を探してくれる?」

死への呪いに憑りつかれた姫葉の頼みを断る理由も無かった。


 再び姫葉の手に小鳥が舞い降りると。突然、意識がなくなる。気がつくと隣に姫葉が座っていた。


「わたしは……?」

「きっと、死子のお誘いね」


 そう、死子は身近にいる。いつでもわたしを殺せるとの意識を感じた。この連続自殺事件は死子から始まったのだ。



            ***



 わたし達は死子の手がかりを探して写真部の暗室に来ていた。長年、使ってないらしく、ホコリが積もっていた。


「見て、カセットテープがあるわ」


 数時間の探索の結果姫葉がカセットテープを見つける。ラベルを見ると『死のメロディ』とかいてあるここは死子が死んだ場所として有名で死のメロディを残したとされている。


「この死のメロディを聴けば死ねる……」


 姫葉は少し嬉しそうであった。本当にこれで良かったのであろうか。わたしは自分が死にたい気持ちより姫葉に生きて欲しかった。きっと、最近の連続自殺事件の元はこのカセットテープであろう。しかし、再生できる機械がない。


「英語準備室で見かけたことがあるわ」


 それは昔、教材をラジカセで流していたのであった。今の様に外国人アシスタントが雇われる前の話である。わたし達は英語準備室に向かい中に入る。


「あった、あった、床の隅に置いてある」


 早速、屋上に行き、再生してみる。


『ガ,ファ、ガ、ファー』


 雑音が流れるだけであった。わたしが諦めて停止ボタンを押すと。近くで視線を感じる。振り返ると。女子生徒が立っていた。長い黒髪で真っ白い肌に首にはアザの後がついていた。


 それは死子である。


『歌舞伎町のこのお店に行くなさい、楽に死ねるわ』


 わたしは怖くなってカセットテープを取り出して屋上から投げ捨てる。すると、死子はスーッと消えていく。


「安心して姫葉、わたしがその店に行って確かめてくる」


 ここで姫葉を一人で店に行かされる訳にはいかない。死子に会ってわたしは気がついた。


 わたしは姫葉と生きたいと思ったのである。


 

                ***



 新宿歌舞伎町に来ていた。ふらふらと歩いていると。遠くに死子が現れる。わたしは死子に着いて行くと。死子は地下へと続く階段の前で消えた。実に分かりやすい、目的地はここか。わたしは地下へと続くか階段を降りていく。


 すると、一軒の店にたどり着く。中に入るとそこはナイフに怪しい薬品、クロスボウまであった。


「あんた、死子の紹介だな」


 店主が声をかけてくる。見た目は紳士だが殺気の凄い人物であった。


「ここは死にたい者しかたどり着けない、どんな死に方がいい?」


 わたしは……姫葉と生きたい。


「友人が来るかもしれないの、お願いだから、自らの死を止めて」

「お前、何様だ」


 店主が怒りだすと店内に姫葉の曲が流れ始める。


「この曲は?」

「最近、流行っている歌姫の曲だ。ここに来る客は皆すでに死んでいる。こんな希望の曲でも流さないとこっちが死んでしまう」


 姫葉……。


 すると、姫葉が現れる。屋上で死のメロディのカセットテープを聴いたあと。姫葉と別れてここに来たのだから。一足遅れで姫葉がたどり着いて、ここに姫葉が来てもおかしくはない。


「予約した者ですが……」

「おや、あなたはこの曲を歌っている歌姫ですか?」

「はい」

「へへっへ、この曲に合ったとっておきのモノがありますぜ」


 店主はカウンターの下のダンボールをゴソゴソとしていると拳銃を取り出す。


「これなら、自分の頭を打ち抜けば一発で死ねます」


 ふ~う


 姫葉が大きく息を吐き、天を見上げる。


「姫葉、とにかく、戻りましょう」


 姫葉が紙袋に拳銃を入れるとわたしは姫葉を店から連れだす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る