第2話ポニーテールの運動好き女子と幼馴染の男子が一緒に帰るだけの話

 日が傾き夕暮れ時の校門の前、1人の男子が佇んでいた。彼の名前は柏原優太かいばらゆうた、彼は校門の前で人を待っていた。すると、1人の女子が校門に向かっているのを見つけ、手を振った。手を振られた女子もそれに気付き手を振り返し、彼の元へ駆けて行く。

「ごめん、待たせた?」

「大した時間は待ってないよ、じゃ帰るか」

 軽く言葉を交わし彼らは並んで歩き出す。

 彼女の名前は神田早苗かんださなえ、柏原とは幼馴染である。

「ゆう君、いつも待って貰ってごめんね」

「いや、こっちがいつもちょっとだけ早く部活終わるだけだから。しかも最近は治安が悪いから1人で返すなっておばさんから言われてるんだよ」

「あはは、お母さんは過保護だなぁ」

「そうか?早苗も女の子なんだしそんぐらい警戒した方がいいと思うけど」

「女の子は女の子でも陸上の県大会出てるから簡単に捕まらないと思うよ?試しに私捕まえられるかやってみる?」

「現役陸上部に理科研究部が勝てるわけないだろ……」

 歩きながら楽しそうに歩く2人。歯の浮くような話をしているがちなみに付き合ってはいない。幼馴染が仲良くなり過ぎても目の毒なだけなのだ。実際1人で下校する生徒が彼らを見て表情に影を落としている。

 そんな事つゆ知らず彼らは懐かしい顔をしていた。

「早苗は昔から走ってるだけだったからなー」

「そう言うゆう君だって昔から本ばっか読んでたじゃん」

「あー、そんでよく早苗に外に引っ張り出されてたわ」

「あー懐かしー。なんやかんや生まれた時からの付き合いだから今年で14年目?」

「おう、今中2だしそれで合ってる。14年かー色々あり過ぎた気もする」

 懐かしそうに話す柏原、神田はそれを聞きむむむ、と顎に手を当て唸った。

「…………思い返せば私人生振り返ったらゆう君しか居ないんだけど」

「あー俺も早苗だけだわ」

 彼らは気付いていない、この会話は予想以上にカップル感が凄く、独り身の方達を傷つけていることに。

「ふふ、これからもそうなっちゃうのかなー」

「いや、友達ぐらい居るだろ?そっちとかとも思い出作っとけよ、後は恋人とか?」

「友達に関してはゆう君も言えないでしょ……」

「俺はいいんだよ、バカ供と馬鹿みたいな実験して遊んでるから」

 ジト目の神田を柏原は軽くあしらう。

 すると神田はふぅ、と息を吐く。

「恋人、ねぇ。今んとこゆう君以外に仲の良い男子なんていないし当分はできないかなー?」

「俺もバカと実験ばっかしてるか早苗以外の女子とまともに話した事ないな」

「なんか高校も大学もこんな感じな気がする」

 そう言うと神田は柏原の手をギュッ、と握る。しかし柏原は慣れている、と言わんばかりに動揺のかけらも見せない。実際、本当に慣れているのだけれども。

「はぁ、そんなんじゃ彼氏できねーぞ」

「その時はその時でーす」

 手を繋ぎ歩く彼ら。なんて事ないように会話をしているが心の中は案外荒れていた。

(まあ、彼氏できかったら俺が貰うし。むしろできて欲しくないんだけだなー。幼馴染がそこまで拘束するわけにはいかんのでな。あーでも早苗可愛いから言い寄る男子は結構いるんだよな。……取られたくねぇなぁ)

 柏原はこう思い、

(てかもうこのまま付き合っちゃえばいいかなー。そうすればまた昔みたいにあだ名で呼んでくれるかなー?……『さなちゃん』、えへへへへへ)

 神田はこう思っていた。

「…………はぁ」

「…………えへ」

 片や不安によるため息を、片や妄想による効果が漏れ出したりしている。

 相手を理解し、近すぎるからこそ見落とすこともある。

 そんな彼らが互いの想いに気付くのは一体いつになるのだろう。


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〇〇が〇〇に〇〇するだけの話 @Ayai-0002

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