〇〇が〇〇に〇〇するだけの話
@Ayai-0002
第1話男勝りなショートカット女子が恋したい男子に告白するだけの話
「恋がしてぇ」
「は?」
不満げに呟く彼、
隣人と言っても学校の席が隣なだけなのだが。
「恋がしたいとかって……きも」
「うげっ、いいじゃん!俺だって中学生なの!恋がしたいお年頃なの!」
ドン引きといった態度を見せる隣人、
(突然女の子の前でこんなこと言ったら確かにきもかったかも……。津紙は男友達感覚でいたから普通に言っちまったぜ!!まあ実際ショートカットで男みたいな性格してたら皆こうなるよな!!)
「…………わざわざ私の前で言わなくても」
「んあ?何?」
津紙がショートカットの髪先を指で弄り何かボソボソと呟いたが彩人には聞き取れなかったようだ。
「な、何でもないわよ!それで?どうするつもりなの?恋したいなら何すんの?」
「はっ!何も考えてなかった!!ヤベー、少女漫画の恋させたいパワーヤベー」
「それはアンタが馬鹿なだけじゃ……」
ふむ、と考え込む彩人。少しの間そうしているとぱっと顔を上げた。
「やべぇ、マジで何も思い浮かばねぇ」
「やっぱ馬鹿だね高島」
「じゃあ何だよ、津紙お前言えんのか」
「え?えー、……まあいいけど。あれだよ、とりあえず女友達増やしてみればいいじゃん、そしたら気になる子見つかるかもよ?」
「津紙お前天才だ!!」
感極まってはしっ、と津紙の両手を両手で握る彩人。きっと彼には今津紙が神に見えているだろう。わかりやすい馬鹿である。
「ちょっ!き、急に握んなぁ!」
しかし津紙は顔を赤らめてバッ、と手を無理矢理離させる。意識しているのが見て丸わかりである。それに気付かないから彩人は馬鹿なのだろうが。
「ごめんよ。けどそれいいな!よし、じゃ行ってくるわ!」
津紙に一言謝り席から飛び出す。ひゃっほう!!これで薔薇色中学生活だ!!と教室の外から馬鹿みたいな大声が聞こえる。
彩人の謎のスピードに呆然とする津紙。
「行っちゃった……。…………私だって女友達なのに……」
拗ねたような津紙の呟きは誰にも聞こえることはなかった。
「無理でした……」
「だろうね」
結果、惨敗。
突然クラスの男子に『友だちになってください!!』なんて大声で言われたら誰だって逃げ出すだろう。もはやサスペンスホラーである。
「ううー、けど恋はしたいよー」
「……ばーか」
彩人が机に突っ伏して恨めしげに声を出すと津紙が拗ねたような反応をする。その態度に気付いた彩人、ニヤリと口角を上げる。
「もしかして、津紙ちゃん、嫉妬してんの?」
「んなっ!?」
「あれ?図星?ぷふー、俺しか喋る相手いないからって嫉妬しないでくださーい」
かああっと津紙は顔を赤らめるとばっと頭を抱えて突っ伏してしまう。だが彩人のあざ笑うかのような態度にイラッとして、ぷちっとブレーキが切れてしまった。津紙が覚悟を決めたかのようにふうっと息を吐く。
「…………そう、だよ」
津紙は真っ赤な顔を上げ、ゆっくりと口を開く。
(あぁ言っちゃったよ……。ええい!ままよ!このまま勢いで告白だ!)
きっ、と赤い顔を彩人に向ける津紙。それはどきり、と彩人の心臓を揺すった。
「え、え?そ、そうだよって……」
「嫉妬、してるの。私がいるのに、女友達作ろうとしてるから」
「え」
津紙の独白に彩人の心臓はどんどん動悸が早まる。色々なことが彼の頭を巡り、考えれば考えるほど答えが分からなくなる。
「ここまで言ったら流石のあんたでもわかるよね?」
「……俺とお前は男友達的なやつの筈……」
まだ顔を真っ赤にした津紙がこちらを向いて、目が合うと下を向いてしまう。その仕草一つ一つまでもが彩人の心臓を暴れさせ、彩人に津紙を一人の女の子として意識させる。
「さっき高島が言ったように私はアンタ以外友達がいない。初めてアンタと話した時は何だこいつ、って思ったけど、男みたいな顔した私にも普通に接してくれたのが嬉しくて……そっから気になり出して……」
確かに彩人は津紙に初対面の時ショートカットの髪型を見て、何で女装してんだ、とふざけて言った記憶がある。津紙はぐっと拳を小さく握りじり、と一歩彩人に近づく。二人の身長は彩人の方が上なので必然的に上目遣いになってしまう、その目は潤んでいてより彩人に津紙が女の子であることを意識させる。
(やべえ、顔あっつい……。ドキドキも止まんねえし、これってもうあれだよな……)
もはや考えるのをやめて、素直な自分の気持ちに気付こうとする彩人。そこに、止めの一撃が。
「だから、その恋したいってやつ、私が相手じゃ、だめ?」
「っ!!」
不安そうにこちらを上目遣いで見つめながら聞いてくる津紙に、彩人は自分の何かが完全に掴まれた気がした。
(あぁ……これには勝てん……)
「だめ、かな?」
「……いいぞ」
絞り出すような彩人の声、それをき聞いた瞬間、津紙の表情がぱあっと明るくなる。
「え、いいの!?本当!?」
「っ!ああ!」
「やった!!」
俺の返事に嬉しそうにガッツポーズをする津紙。普段から彩人にツンツンしていた津紙の喜ぶ姿に驚く彩人。そして見られているのに気付いたのかはっ、として顔をまた赤くして俯いてしまう津紙。
「だって、だって、……初恋、なんだもん」
言い訳のように声を絞り出す津紙。その中々の破壊力にぐ、と顔を赤くして声を詰まらせる彩人。
とりあえず二人の関係は一新され、今から二人は”恋人”である。
それに二人共気付いたのかもじもじし始める。
「ま、まあこれから改めてよろしくな津紙」
「うん……よろしく、彩人!」
笑顔でそう言う彼女の表情は教室に差し込む夕日と映えて、彩人の目にとてもきれいに映るのだった。
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