第26話 竜姫の巣

 四聖獣、かつて数千年前この世界が四大魔獣によって混沌に染まり、人々が絶望の日々を過ごしていた、その時英雄ライトによって集められた四体のモンスター。

 今やその伝説は薄れ、ただのおとぎ話として語り継がれている。しかし、四聖獣の血は少なくとも今も残っていた。

 純血種だけでは生き残れなかった彼らは繁殖能力が高い人や亜人と子を残し、その混血が生きている。

 その内の一人が俺の仲間の一角大狼ホーンウルフエリナ、そしてもう一人がビグド山脈の主二尾光龍シャイニングドラゴンウルシェナ。


「そこの小娘、一角大狼ホーンウルフか?」

「は、はい!」


 ウルシェナの鋭い眼光がエリナを捉える。出会って早々目をつけられてしまった。

 同じ聖獣の末裔だから仲良くできるかもと思っていたのに。


「アッシュ! この我がいながら他の聖獣の末裔をそばに置くのか!?」

「いや、エリナは学園の仲間で……」

「お主は人を惹きつける魅力があるとはわかっていたが、誰とでも親しくなるのじゃな」


 こうなったウルシェナは話を聞かない、自分の世界に閉じこもってしまう。

 どうしたものか。


「単刀直入に言わせてくれ、抜け道を使いたい」

「理由は?」

「村に帰る」

「それだけか?」


 ウルシェナに嘘はつけない、いや、正確には嘘をついても意味が無い。彼女は嘘を見抜く。正直に話すしかない。


「以前一緒にいたセシリアの縁談がある」

「ほう、それは吉報じゃな……じゃがお主は喜んでおらぬようじゃが」

「あぁ……その縁談を邪魔しに行くつもりだ」

「ならこの話はなしじゃ」

「やっぱり」


 俺は何故かウルシェナに気にいられている、それ自体はいいんだがどうにも俺が他の女と一緒にいるのが気に食わないらしい。


「我はアッシュとはこの山でしか会えぬと言うのに、所詮我は便利な都合のいい女と言いたいんじゃ! 我はこんなにもお主を思っているのに」

「ウルシェナ、お前の気持ちは嬉しいけど俺は――」

「聞きとうない! 言うな言うな!」


 耳を塞いでしゃがみこんでしまった、交渉は失敗か。


「私の鼻があれば危険なモンスターを回避しながら進めると思います、抜け道が無理でも回り道よりは早く山脈を超えれると思いますよ」

「そうだな、それしかないか」

「それも嫌じゃ! 我は要らぬ女か?」

「そうは言ってないだろ?」


 小動物のような可憐な表情をするウルシェナに申し訳ないという気持ちが芽生えてしまう。第一聖獣が小動物に見えてたまるか、俺なんかウルシェナにかかれば簡単に殺せるぞ。


「お主、エリナと申したな?」

「はい」

「アッシュの事をどう思っておる?」

「えっとその……え?」


 いきなり何を聞いてるんだ、エリナが戸惑うのも無理はないぞ。


「アッシュさんは私の大切な仲間です、人間をもう一度好きになるきっかけをくれた方の友人です、私は受けた恩を返したい、ただそれだけです」

「……エリナ」


 まさかエリナがそこまで考えていたとは思わなかった。


「そうか、アッシュは恩人か……異性としてつがいになりたいという気持ちはないんじゃな?」

「つがっ!? な、なななないです!」

「おい、いきなりそれは飛躍しすぎじゃないか?」

「これは大事な質問じゃ! じゃが、嘘は言っていない……仕方がない、特別に許可しよう」


 全く、ウルシェナのぶっ飛んだ行動には頭を抱えさせられる。

 でもこれで抜け道が使える、これで村に早く行ける。


「じゃが使えるのはエリナだけでアッシュはダメじゃ!」

「なっっっんでだよ!」


 なんでこうもめんどくさいんだ、てかなんで俺にそこまでこだわるんだ。


「我の見えぬ所で他の女に会いに行くのは耐えられん!」

「ならお前も来ればいいだろ?」

「……いいのか?」

「いや、まぁいいけど……むしろ心強いし」


 実際ウルシェナが居ればほとんどのモンスターは簡単に撃退できるだろうし、俺の想像できる中でも実力は一番強いだろうし。


「なら我も共に行こう!」

「そんなあっさり」

「善は急げじゃ、早く抜け道を使って向こう側に行くぞ! アッシュと旅、アッシュと旅〜」


 ウキウキなステップでウルシェナは歩き出した、その後を俺とエリナが着いていく。エリナは魔力切れを起こしているから杖をついて危なっかしい。

 ウルシェナが前を歩いていると、驚く程に他のモンスターは姿を見せなくなった。それほどこの山では彼女が絶対的で逆らえない存在なのだろう。


「抜け道で我の家に一旦寄るぞ、人里に降りるんじゃ、外出用の服を着ねばならぬからな」


 そう言えば鱗で人の部分はあまり見えていないが今のウルシェナは全裸なのか、見る人が見ればこれもまた興奮するのかもしれない。

 いやいや、そんな理由ではないだろ、純粋に半竜状態で出歩くには目立ちすぎるからだ。


 山脈の麓、傾斜がきつくなり始める所で目的の抜け道が見えた。一見何もない岩肌だがウルシェナが巨大な岩を持ち上げるとその裏から道が見える。


「ここから先は我が光になる、目を潰さぬよう気をつけるのじゃぞ」


 既に真っ暗な森の中をウルシェナの光を頼りに進んでいたと言うのにさらに光るのか。

 ウルシェナの体を覆う鱗が広がり小さな一匹の飛竜になる。

 鱗が光るのだからそりゃ全身鱗の飛竜はさらに眩しい。


 抜け道に入りさらにしばらく歩いていると大きな空洞にでた。


「この上が飛竜の巣じゃ」


 そう言って天井を指さす、つまり今は飛竜の谷の真下。高い山を越えてやっと辿り着ける場所にこんなにあっさり来れるのだから抜け道というのはだてじゃない。


「エリナ、お主の服もかなり汚れているな、我のをくれてやる、着いてくるがよい」

「ありがとうございます」

「アッシュはここで待っておるのじゃ!」

「言われなくても大人しくしてるよ」


 そう言って二人は空洞の脇道へ進んでいく。

 あのウルシェナの事だ、エリナに変な事をしてなければいいんだが。

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クズ鉄達の下克上【一章完結休止】 金輝(キンキ) @kinki_4594

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