第23話 東雲ほたるは最強です!
「それじゃあ、始めるぞ」
「「おー!」」
俺の掛け声に合わせて、二人はひそめた声と共に拳を上げる。
一人は昨夜俺に電話をかけてきた、ミス赤点という二つ名を我が高校に轟かす件の幼馴染、そしてもう一人は俺がこの日のために前々から声を掛けていた鷹ノ森のぽぷらちゃんこと、東雲さんである。
いざ、とりかかろうとすると小夜が半眼を向ける。
「遊馬も水臭いわね~。本当は念入りに準備してくれちゃってさ~」
「ま、まぁ、どっちみち東雲さんと勉強しようと思ってたしな?」
顔を背ける俺をこのこの~、と肘で小突いてくる。
何とも調子のいいやつだ。
もう完全復活してやがる。復活のSだな。
こうなるんだったら昨日の泣きべそ通話、録音しとけばよかった。そうすれば今この静寂に満ちた空間で彼女の情けない姿をさらすことができたのに。
何とも惜しいことをしたものだ。
例の小夜「私、一週間前からじゃないと勉強しない」事件があったあの日、俺は東雲さんと分からない箇所を教えてもらい、その場で彼女は勉強ができるということを悟った。
数学が苦手とかなんとか言っていたが、解いていた範囲は問題集で最も難しい応用問題(大学入試問題)のところで、普通に基礎やある程度の応用までは難なくこなしていたのだ。それで、俺も教えてもらいつつ、どうせ俺に泣きついてくるであろう小夜の勉強も一緒に見てもらおうというわけである。
可愛いだけじゃなくて勉強もできる東雲さん=最強。
この世の中の摂理だな、うん。
「それじゃあ、東雲さん。よろしく頼みます」
「了解っ!」
ビシッと可愛く敬礼する。
小さな彼女が何とも頼もしい。
俺はある程度一人で勉強できるので、基本的に小夜とマンツーマンでやってもらうことにした。全く分からない、と前日に白状したミス赤点の赤点回避が喫緊の課題である今、彼女に全振りしてもらう。
早速、東雲さんは机に広げた主要教科から小夜にどれから始めるか尋ねた。
すると小夜はそこからサク〇ードを手に取り。
「やっぱり、数学からしないと……。いくら読んでもチンプンカンプンだったわ……」
彼女らしからぬ、いきなり死んだ魚の目になった。
分からなかったことを思い出したのか、ハハハ……と寂しげな笑みまで浮かべている。こ、これは相当苦戦した跡が伺えるな……。
彼女がこんな感じなのは珍しい。やはりお小遣いを没収されないため、彼女なりに一生懸命頑張ったのだろうが、一人ではさすがに厳しかったようだ。
「うんっ、数学だね!」
東雲さんも合点して、自分の数学ノートを取り出す。
それを基に彼女に教えていくらしい。
「ほたるん、よろしくお願いします!」
俺が社会の暗記を始める傍ら、テーブルに小夜の威勢のいい声が響いた。
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