第19話 ビールは経費で落ちません!
「にしても、夢中で読んでましたね……」
寝ている間もギュッと握って手放そうとしなかったスマホを小夜に返す傍ら、俺はボソッと呟いた。
こんなにクリティカルヒットするとは思ってなかったな、本当。
先生に読まれる前は国語の先生だからってビビりまくってたけど……、普通に俺の小説を好きになってもらえたようで一安心である。
「お姉さん、もう胸がキュンキュンしちゃったよ!」
スマホを返した先生は、嬉しそうにこちらを向いた。無邪気な笑顔で小説の感想を語る彼女は、まるで青春を謳歌している女子のようで。
見た目は三十路、中身はJK……時の流れは残酷である。
ちなみに、先生の一人称にツッコまなかったのは敢えてだから。
そこのところ、よろしく。
「あ~、誰かいい男性(ひと)はいないかしら……」
読んだ感想を言い終えた真嶋先生は、現実に戻ったのか、急に寂しそうな口調になって天井を見上げた。久しぶりに幼馴染にでも連絡してみようかな……などと独り言を周囲を憚らず呟いている。
真嶋先生の幼馴染さん、ご愁傷さ……おめでとうございます。
いいなー、羨ましいなー。
と、先生が一人遠い目をし始めたところで。
「それじゃあ、これくらいで終わりにしようか。明日もあるしね?」
パンパンと手を叩いた部長は、最後に主役二人に感想を求める。
「ええっと……、とっても楽しかったです……!今日はありがとうございました!」
「私も楽しかったです!真嶋先生もシマウマさんの小説のファンになってくれたみたいだし……私嬉しかったな!」
ねっ?とはにかみながらこちらを見上げる東雲さん。
透明って、純真ってこういうことなんだな。彼女の笑顔を見て俺は認識した。
天使ですわ、ほんま。
「ま~た、ほたるんに鼻の下伸ばして……気持ち悪いわよ」
「お前のデレの100倍可愛いからな」
「なっ……⁉」
こないだの事を思い出したのか顔を赤らめる小夜。
ダルがらみするんじゃなくて、こうやって静かに顔を赤くしてるだけならこいつも可愛げがあるんだけど。
「はいはい、それじゃあこれでお開きにするよ」
俺と小夜の闘争がまた始まりそうなのを見て、部長はお会計へと向かった。
凛様、俺を見捨てないで……。小夜はともかく。
「それじゃあ私達も出ましょうか」
まだ顔は火照っているものの、もう酔いがさめたのか、しっかりとした足取りで出口へと向かう真嶋教諭。俺達も彼女の後についていく。
そして会計を済ませる部長の後ろを通り過ぎた時。
「待ってください、真嶋先生」
なに一緒に出ようとしてるんですか?と彼女はがっちりと腕を掴まれた。
えっ?という間抜けな声を漏らす顧問に対して。
「ビール代は経費で落ちませんよ?」
冷え切った声で部長はビール代500円を請求する。
「あっ……ですよね~……」
アハハ……と引きつった笑顔を浮かべる真嶋教諭。
誤魔化せなかったか、とでも言いたげな笑みと共に渋々自分の財布を鞄から取り出す彼女を情けなく思いながら、俺達はコ〇スを後にしたのだった。
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