第13話 小夜・相変わらず

 日曜日夜6時。

 この日、我が町唯一のコ〇スの一角で鷹ノ森高校文芸部の精鋭たちによる宴が開かれようとしていた……。

「みたいな、書き出しはどう?」

「なんのこっちゃ」

「何って、次の遊馬の小説じゃない」

 それくらい分かって欲しいものよね、と嘆息する小夜。

 彼女が考えている俺の新作は、鷹ノ森高校文芸部を舞台にしたものらしい。てか、いきなり何を言い出すのかと思えば……何だその書き出しは。全然何のことか分からなかったぞ。

 文芸部の精鋭による宴って……俺にどういった小説を書けと御所望なんだろうか。

 少なくともその表現の時点で、俺は一瞬で読む気が失せた。

「なんか雰囲気が出てるじゃない」

「どこらへんが?」

「う~んと、そうねぇ……」

 いきなり詰まってるじゃないか。雰囲気もへったくれもない。

「あっ、東雲さんも来たね」

「遅くなりました~!」

 俺達の夫婦漫談(誰も聞いていない)も丁度終わったころ。

 文芸部最後の精鋭である東雲さんが到着した。

「そ、それじゃあ……僕はハンバーグ定食Aで……」

 各々が夕食を注文していく。小夜を除いて普段学校でしか会わないから、私服姿でテーブルを囲むのは何だか新鮮だった。

「楓は飲み物、何がいい?」

 注文を一通り終えて、立ち上がる。

 すると楓も遠慮して立ち上がろうとするが、手で制止する。主役なんだから、こういう仕事は俺達がやらなくちゃな。

 いつも遠慮がちな楓にはもっと俺達を頼って欲しいし。

「あ……えっと、じゃあ……りんごジュースでお願いします」

「オッケー。東雲さんは?」

「私は……ジンジャーエールで!」

「了解。それじゃあ……」

「あっ、私コーラね」

「ハイハイ……って、お前は自分で取りに行け!」

 危ない、思わず承諾してしまうとこだった。上手いこと流れに乗ろうたってそうはいかないぞ。

 くぅ~引っかからなかったか~、と悔しそうに指を鳴らす。

 俺が先輩としての心がけを説いた直後だというのに。

 もうちょっと自分で動くという精神を小夜には培ってほしいものだ。

「雨宮さんのは私がついでに取ってくるよ」

 ジトっと小夜を睨んでいると、俺に続いて部長も立ち上がった。

 なんて慈悲深い………!

 心が海のように広い部長に小夜のせいで荒んだ俺の心が浄化される。小夜も部長がこの人であることに感謝した方がいい。俺が部長だったら、有無を言わさず即刻除籍処分にしていたところだからな。

「それじゃあ、お願いしま~す」

 てか、お前は本当にいかないのな。

 主役二人と同様にテーブルから一歩も動かない構えを尻目に俺と部長はドリンクバーへと向かった。

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