第9話 文芸部と言えば、鬼ごっこでしょ!
「とまぁ、これが文芸部かな…………ハハハ」
部長公認のどつきを彼女にかました後。
「何すんのよ~、遊馬!」
「お前は一回反省しろ!」
部室は騒がしさを増していた。
というのも、どつかれた小夜が逆ギレして俺を追いかけ回してきたのだ。もちろん絡まれたら面倒なので、俺も狭い部室の中を逃げまわっているんだけど。
呆れる部長とそれを見守る東雲さん、そしてそんな周りの喧騒など露知らずマイペースにページをめくる楓。
さすが楓、俺達がいても動じないあたり本物の読書家。
小夜にはこの姿をぜひとも見習ってもらいたいものである。
「そうそう。さっきアカウントを持ってるっていう話だったけど」
「あっ、はい!」
俺達の耐久レースも佳境をきわめた頃。
部長も東雲さんも俺たちの過酷な戦いを無視し始め、適当に会話をスタートさせた。
り、凛様……見捨てないでください。
熱視線を送ると彼女は俺の視線に感づいたようにチラッとだけこちらを見たが、哀れんでいるような、同情するような瞳になっただけで、すぐに東雲さんへと視線を戻した。
ひ、ひどい……。
ただでさえ運動のしていない俺の体力が続くわけがなく。アホみたいに小夜と走り回っていたせいでガス欠を起こした俺は、部長に視線を切られたのと同時にその場で立ち止まってしまった。
「言い心がけだと思うわ!さっさとお縄にかかりなさい!」
振り向くと何一つ息が切れていない小夜が満面の笑みを湛えている。
何でお前はこうも元気なんだよ。
お前も文芸部だろ、もっと文芸部らしくしろよ。
「安心なさい、痛いことはしないから」
そういう彼女の手には油性ペンが握られていた。
そ、それで何をするつもりなんだ――って、そんなのわざわざ聞かなくても分かっているけど、お決まりなので聞いておく。
すると。
「ひ、額に肉って書くだけだからっ……」
言いながら、ひとりでにクスクス笑いだす小夜。
うわっ、やだ小夜さんったら怖い。
あっこれ、急に笑い出したことへの恐怖だから。決して額に「肉」と書かれることへの恐怖じゃないから。勘違いしないでよねっ!
てか冷静に考えて……いや冷静に考えなくても、額に「肉」と書いて笑うのはせいぜい小学生までくらいまでじゃないのか。
これってそんなに面白いの?
周りの反応を確認するが、誰一人俺達を見ていなかった。
何とも悲しい惨状である。
だが彼女の中ではツボに入ったらしく、今も俺の額に「肉」と書いた後のことを想像しているのか、フ、フフフッ……と我慢するような笑いが漏れている。
だが実際、人の顔に落書きをして楽しもうとは彼女の知能指数はIQ3の書記ちゃんと同じということだろう。
逆にこちらがドーンだYO!と言ってやろうか。
「アカウントを持ってるって、もしかして小説書いてたりするの?」
「えっ?あっ、いや私は読み専門です!」
相変わらずあっちはあっちで話を続けてるし。
そろそろこちらに参戦してくれてもいいんですよ、お二人さん?
笑うのに忙しい彼女の事はほっといて、部長と東雲さんに視線を送っていると。
「遊馬、覚悟なさい!」
やっと笑いが収まったのか、小夜はいつもみたいに元気のよい声で、俺の顔めがけて勢いよくマジックを伸ばしてきた。
だが、追い込まれてからが俺の真骨頂だ。
「フッ、俺がお前の攻撃に屈するはずがないだろっ!」
俺の彼女に負けじと対抗………ってなんだかんだ俺も結構ノリがいいよな。
そんな事を思いつつ、彼女に落書きをされまいと俺は彼女のペン捌きを必死に交わし続けた。
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