第5話 秋灯

 あおむけの状態のまま枕元に手を伸ばし、電灯のリモコンを探した。真っ暗な闇の中適当に伸ばした手は何もつかめなかった。一度、かつん、と爪とプラスチック製品がぶつかる音が聞こえたが、それで弾いてしまったのかリモコンはどこかに行った。


 闇の中椿が動く気配がした。彼は向日葵のような横着はせずちゃんと枕元のほうを見て手を伸ばしていた。しっかり見れば蛍光塗料が光っているはずである。彼はすぐにリモコンを捕まえてボタンを押した。ぴ、という音の直後部屋のライトがついた。


「LEDの明るいライトか真っ暗か、は風情がないな」

「豆電球使う?」

「間接照明とかいろいろあるやろ」

「はあ、そんなおしゃれなものわたしが使うかね」


 上半身を起こして、ぼさぼさになった自分の髪を手櫛で整える。


「大学の時の部屋は六畳ワンルームできつきつやったから言えへんかったけど、ここならええ感じのランプ置けるんちゃう?」

「大学の時のわたしの部屋ね、椿くんが勝手に入り浸ってた部屋」

「合鍵くれたやん……」

「椿くんの実家の部屋にもそんなもんなくなかったっけ?」

「あったよ、寝る時だけ押し入れから出しててん」


 椿が座った状態で手を振って自分の肩のあたりを示す。


「これくらいの灯台」

「とうだい? 灯台下暗しの灯台?」

「そう」

「風流だね、さすが椿くんの実家」

「今時LEDやけどな」


 お互いの顔を見た。何を思ったのか椿は向日葵の額に自分の額を押し付けてきた。至近距離、呼吸まで触れ合う。


「いろいろ置こう。二人の家」


 向日葵は笑って頷いた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る