第15話 受難と受難

 ルージュは満面の笑みを浮かべている。

「その女の子は……誰……かな?」


「俺の一回戦の対戦相手でさ、ミリアっていうんだ。仲良くしてくれ。」

 今後の学友となっていく存在だ。ミリアにも挨拶をするよう促す。

 しかしミリアは挨拶をするそぶりを見せない。それどころか俺の後ろに隠れてしまった。


「ミリアちゃん……っていうんだ……これから……よろしくね?」


「おい、どうしたんだよ?」

 なぜだか知らないがミリアは俺の後ろに隠れたままだ。顔だけのぞかせてルージュをにらみつけている。


「私は、譲りませんから!!」

 突然大きい声を出す。何事かと周りの人が関心を向けだす。変なことをして目立つのはやめてくれ。


「落ち着けよ、意味わかんないこと言ってないでさ。」


「私のほうが……先なんだけど……?」


 ルージュは笑顔を崩していない。しかしその笑顔が張り付いたように単調で変化がないものだということに気づく。これは怒っている時の顔だ。原因はわからないが俺を挟んで喧嘩のようなものが起きようとしているのは理解した。


「あれ?レイ?レイじゃないか?」


遠目に白い髪のショートカット姿が見えた。正直それだけでは本人かどうかなんて特定はできない。しかし今の俺には本人かどうかよりもその場を離れる口実のほうが大事だ。

 いがみ合っている2人を置いて近寄っていった。




「レイ?」

 後ろから軽く声をかける。白髪の少女はその声を聞いて体を震わせ、おびえたように振り返る。


「なんだ、アランか。驚かせないでよ。」


「なんか、体調とか大丈夫か?」

 少し普通でない反応に戸惑いを覚える。声をかけただけでこういう反応はされないだろう。


「ごめんごめん、ちょっとナーバスになっててさ。」


「次の試合だったりするのか?」

レイは無言でうなずく。


「それがね、……」


「レイ」

 長身のエルフ族が目の前に立ちはだかる。冷たい目で見おろさる。その目は何も見ていないように感じた。


「棄権して即刻国に帰れ。ここまで愚かだとはおもっていなかったぞ。」


「でも……私……」


「これ以上失望させるな。」

 それだけ言い残してその男は去っていった。



「誰だったんだ、あいつ?」


「私の、双子の兄なんだよね。」

 レイは空を仰いで語り始める。


「私ってさ、エルフの族長の娘って話したじゃん?当然いろいろ期待とかされたわけなんだけど…… 兄さんはなんでもできたけど私は何もできなかった。言ってみれば期待はずれだったわけね。きっとお母さんのお腹にいるときに私の力まで全部兄さんが持ってったんだろうな。」


 こいつも大変な人生を送ってきたんだな。前世の時の自分と境遇が少し重なる。賢者として期待されたが何もできなかった自分。そして族長の娘として生まれたが優秀ではなかったレイ。


「だから、絶対に兄さんに勝って、私のこと認めてもらうんだ。」

 そう言いながらもレイは震えている。同じ経験をしただけに今のレイの気持ちに共感できる。だが、かける言葉は見つけられない。


「もう行かないといけないから、行ってくるね。」

結局何も言えずに送り出してしまった。





 試合会場はルージュの時の隣の訓練場だった。多分いまはルージュたちに合わないほうが無難そうだ。あの二人の喧嘩が収まってから戻って、レイの応援してたこと伝えれば勝手にいなくなったのも許してくれるだろう。それより今はちゃんとレイの応援するか。今回は観客は少なそうだな。そう思ってあたりを見回していると見たことのある顔が並んでいる。


「おい、お前たち、トーナメント表の前で絡んできたエルフたちじゃないか?」


「げ、あの時の妖魔族か?」

 そろいもそろってバツの悪そうな顔をする。悪いことしたと思ってるのはいいことじゃないか?いい機会だし親睦を深めておくか。


「兄妹対決だろう? どっちが勝つと思う?」

 雑に降った話題だが、ありえない、といった顔で見返される。


「グレン様と勝負になるはずがないだろ。それにそもそもこの試合に『意味』はないからな。」

 さもそれが常識といった感じの口ぶりで違和感を感じる。いくら実力差があるとはいえ意味がないことはないと思うが。


「始め!!」

 審判の合図とともに試合が始まる。


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勇者パーティーを追放された賢者~二度目の人生は魔族側につきます 創紀 @soki-123

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