第13話「新年祭ー3ー」
20分か30分ぐらいだろうか。
迷子になった子供が、周りから良く見えるように肩車をして辺りを歩いた。
だが、親はまだ見つかっていなかった。
親が見つからず、子供はまた半べそをかきだした。
ぐぅぅぅ~~~~。
「なんだ?腹でも減ったのか?」
お腹を空かせる大きな音は、肩車した子供からだった。
不安で泣いていても、腹は減るらしい。
子供は小さく頷いた。
「何か買ってやる。食べたいものはあるか?」
「…………ありがとうお兄ちゃん…………それなら、あれがいい」
子供が指したのは、油で揚げたスティック状の食べ物が売っている屋台だった。
元の世界で言うと、チェロスの様なものだ。
匂いからして、甘い食べ物だろう。
一般的なチェロスより、少し大きいようだ。
「おじさん。これを一つくれ」
「あいよ!毎度あり!」
それを受け取ると、なんとも食欲をそそられる良い匂いがする。
「ほら、坊主」
「わぁぁ!!美味しそう!!」
子供は目を輝かせそれを受け取る。
そのまま勢いよく食べるのかと思いきや、一瞬だけ食べようとしただけで、口を付けることはなかった。
「ん?どうした坊主。食べないのか?」
「…………うん。お母さんと一緒に食べるの」
「まだ見つからないんだ。早く食べないと冷めちまうぞ?」
そう言っても、子供は食べようとしなかった。
「…………お母さん、朝から忙しそうで……それで……お母さん、これ好きだから…………」
「なるほど。もしかして、それを買おうとしたら迷子になったのか?」
「うん。お母さん、喜んでくれるかなって」
そういう事だったのか。
「…………いくぞ」
「え?」
「早くお母さんの事見つけて、それやるんだろ?」
「…………あ、うん!!」
そうしてまた歩き出そうとした時に、正面から大きな声がした。
「クレイン!!!!」
「あっ!!ママーーーー!!」
その声に反応し、走っていく子供。
あの子供、クレインというのか。
「クレイン!!!!どこ行ってたの?!そこら中探したのよ!!」
「……うぅ……うぅ……ごめんなさい」
母親の顔を見て、安心したのだろう。
母親にしがみつき子供は泣いていた。
「なんで黙ってどっか行くの!!」
母親の方はすごい剣幕で怒っているのだが、それだけ心配だったという事だろう。
「あまり叱らないでやってくれ」
俺の声に反応し、母親はこちらを怪訝な顔で見てきた。
「…………あなた達は?」
「その子供。クレインといったか?一人で泣いていたから、さっきまで一緒にいたんだ」
母親はその言葉で、状況を理解したのか、俺たちに向かって頭を下げてきた。
「息子がご迷惑をおかけして、すいませんでした」
「いや、いいんだ。それよりも、クレインはあんたにそれを食べさせてやりたくて一人で頑張ったんだ」
「え?……それを?」
「ああ。あんたが朝から忙しかったから、食べさせてやりたかったらしい。そうだろ?」
「…………うん」
子供が手に持ったお菓子を差し出す。
それを見て母親は、子供を愛おしそうに抱きしめた。
「あの!!本当にありがとうございました」
「…………見つかってよかったな」
そう言って、俺とエレナはその場を立ち去った。
「どうかしたのか?さっきからずっと黙ってるが」
そういえばエレナは、子供を見つけてからずっと黙って着いてくるだけだった。
「…………ううん。別に」
「子供、嫌いなのか?」
「違うわよ、ばか!!」
なら何故ずっと黙っていたのだ。
「あんた…………いつも不愛想だし、礼儀知らないし、目つき悪いし、感じ悪いし、なんか態度でかいし」
ん?
いきなり何の話だ?
てかこの娘は、俺の事散々に言い過ぎじゃないのか?
「でも……さ。優しいとこもあるんだなって」
「まぁ…………。俺も経験があるからな」
昔の俺も、寂しくてああやって泣きじゃくっていた記憶がある。
それと重なり、放って置くことができなかっただけだ。
「……経験?経験ってなに?」
しまった。
またやってしまった。
記憶がないはずなのに、経験なんてもの覚えているはずがない。
「あ……いや。俺もお嬢様たちに助けられた。それなのに、他人が困っているのを見捨てたら罰が当たる」
「…………ぷっ。何よそれ。まぁ良い心がけじゃないかしら?これからも、その心を忘れぬように!!」
なんか偉そうなのが少し癪に障るが。
ごまかすことはできた。
危ない危ない。
やはり言動には、気を付けなければいけないな。
「日も傾いてきたな。そろそろ屋敷に戻ろう」
「うん。そうね!!」
今のエレナは、いつもと少し反応が違うように感じるのは気のせいだろうか。
隣を歩くエレナと共に、屋敷に向かって歩き出した。
その日の夜は、そりゃもう皆大騒ぎだった。
夜空には花火があがり、静かに降る雪を鮮やかな色で照らす。
冬に見る花火は初めてだったが、なかなかに良いものだった。
多くの客、領民が屋敷を訪れる。
そこに、貴族と民の壁はない。
その様子を見ると、ハロルドたちは本当にここの民に慕われているのだと思った。
亜人と呼ばれている者の姿も、ちらほら見受けられた。
犬や猫が人間になったような姿や、角が生えているような姿も。
少数だが、セレンディア領にも亜人は暮らしているみたいだ。
俺は静かに過ごそうと思ったいたのだが。
酒を飲んで出来上がったハロルドに捕まり、夜遅くまで付き合わされることになった。
俺も酒はそんなに強くないというのに…………。
次の日、俺はもちろん二日酔いで動けなかったのは言うまでもない。
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