第12話「新年祭ー2ー」

 

 屋敷の前には、町で一番の大きな広場がある。

 そしてそこが一番の広場だ。


 俺とエレナも、町の様子を見るために広場に出ていた。

 至る所で祭りの準備をしている。

 

 今日は晴れているといっても、真冬だから寒い。

 だが人々は皆、楽しそうに作業しているのが分かる。


 周りを見渡してみると、広場の端の方でローブを着た数人が、地面になにかを書いていた。

 少し遠くからだと良く分からないが…………魔法陣のようなものを書いている。

 

「お嬢様。あれ何してるんだ?」


「あー、あれね。火炎魔術の術式を書いてるのよ」


 いったい何のために。

 寒いから火でも起こして暖をとる為とか?


「夜にあれで炎を空に打ち上げて、空で爆発させるのよ。そうすると、夜空に花が咲いたみたいになるわ」


「あーなるほど。花火か」


「花火?なにそれ」


「あ、いや…………てか、わざわざ魔法陣書かなきゃいけないようなものなのか」


「そうね。炎を打ち上げるだけなら簡単だけど、それに色を付けたり、形を加えたりするから。そうすると、術式がちょっと複雑になるのよ」


 へぇー。

 魔法陣を組むことによって、そんなこともできるのか。


「あと、魔法陣じゃなくて、術式よ。魔法と魔術は別物だもの」


「似てるけど、何か違うものなのか?」


「魔術は、魔力を利用して、それを魔術原理に基づいて事象を発生させる。けど、魔法は魔力そのものが発生させる、説明のつかない現象よ」


 んん…………。

 ちょっとイメージが湧かない。

 それを言ったら、魔術だって俺からしてみれば説明がつかない物なのだが。

 

 まぁ今日わざわざ難しい話を聞く必要はないだろう。

 これ以上は掘り下げないでおこう。


「ーーーーあ。そういえばね…………あんたに渡すものがあるわ」


 そう言うとエレナは、コートのポケットに入れ何かを取り出した。


「…………はい。これ」


 差し出されたのは、小さなペンダントの様なもの。

 青い宝石のようなものが付いている、小さなものだ。


「…………ん?これは?」


「ペンダントよ」


 見ればわかる。

 俺が聞きたいのは、そういうことじゃなくてだな。


「あの。なんで俺に?」


 プレゼント……なのだろうか。

 だとしたら、エレナは頭でも打ったのか?


「新年祭の時、弟子に何か送ったりするものなのよ!!あ、あんたには魔術教えたし……一応弟子みたいなものだし……」


「でも、俺は結局使えなかった」


 そうすると、エレナはむっとする。


「いいからあげるって言ってるの!!」


 半ば強引に、それを渡される。


「一応加護の力が加えてあるわ。お守りみたいなものかしら…………いらなかったら後で捨てて!!」


 お守り…………か。

 

 誰かから、何かをもらう。

 そんな事今まであっただろうか。


 覚えているのは、優理にもらった誕生日プレゼント。

 それくらいだ。

 それ以外では、覚えている限り一度もない。


 気恥ずかしい気持ちがあるが、それはエレナも一緒らしい。

 横からみても顔が赤くなっている。

 それは寒さのせいではないだろう。


「ありがとう。大事にする」


「…………そう」


 一瞬だけ、こちらを見たエレナ。


「は、早く行くわよ!!」


 そういってまた、早歩きで前を歩いて行ってしまう。

 だがそれが逆に助かった。

 俺も恥ずかしくて、多分横を歩いていると気まずいと思うから。


 だけど、心の中では。

 

 ありがとう。

 純粋にそう思った。





 広場を抜け、町中を歩き回る。

 町中に色んな装飾がされたり、出店がいっぱい出ていたり。

 とても賑やかだ。


 さすがに領主の娘というと、色んな人に挨拶されるみたいだ。

 

 その度に、困ったことがないか聞いてみる。

 だが、助けを求められることはなかった。


 毎年の行事なのだ。

 数日前から、事前に準備をしているところも多くあった。

 それぞれが、準備することに慣れているのだろう。


 それと、やはり領主のお嬢様となると、遠慮もするのだろう。

 

「あーーーーこれじゃ、来た意味無いじゃない!!」


「まぁ…………でもこういう祭りの雰囲気みれて、俺は悪い気はしない」


「あんたとデートしに来たんじゃないんだけど」


「いや、デートって」


「な、なによ!!例えでしょ、例え!!何本気にしてんのよ」


 別に本気になどしていない。

 その例えが変だと、そう言ってやりたかった。


 そう思ったとき、目の端でうずくまっている子供を見つけた。

 建物の角で泣いているようだった。


「お嬢様。あれ」


 そう言って指をさすと、エレナも気づいたようだ。


「可哀想に。どうしたのかしら、あんな所で……あ、ちょっとアレン!!」


 エレナが喋っている途中だったが、既に足は子供の方に動いていた。


「おい。どうしたこんなところで」


「…………ひぐっ……ひぐっ……ママがいなくなっちゃった」


「母親とはぐれたのか?」


 そういうと、子供は頭を縦に振る。

 5歳か6歳といったところか。


 寂しくて、不安で泣いていたのだろう。

 もう二度と会えないのではないかと。


 俺はその気持ち、良く知っているつもりだ。


「よし。俺の背中に乗れ。一緒に探してやる」


「……ひぐっ…………本当?」


「ああ。本当だ。だから泣くな」


 そう言って、俺は子供を背負う。


 余程不安だったのか。

 子供は俺の背中に乗った後、服をぎゅっと握り離さなかった。

 

 人通りが多いが、母親も子供を探しているだろう。

 それに幼い子供の行動範囲など、さほど広くないはずだ。

 この辺りを、おぶって探していれば、じき見つかるはずだ。


 俺は人通りの中を歩き出す。


 エレナはと言うと、終始無言でついてきていた。


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