第11話「新年祭」

 ハロルドに呼び出され、俺とエレナはハロルドの部屋まで来ていた。


「失礼します。お父様、要件とはなんでしょうか?」


「おお、来たか!ちょっとだけ待っててくれ」


 部屋には、ハロルド以外にも使用人がいて、みんな慌ただしく動いていた。


「よし!それはあっちに運んでくれ。ルディアーー!!ルディアはいるか!?」


「はい、旦那様!お呼びになりましたか?」


ハロルドの大きな呼び声に、別室から慌てて走ってくるルディア。

メイド長である彼女も朝から大忙しだ。


「うちが準備して振舞う料理の状況を聞かせてくれ」


「はい。そちらは滞りなく、時間までに仕上がるかと思います」


「そうか。足りないものがあったら、遠慮なくすぐに言うのだぞ?」


「お心遣いありがとうございます」


 今日は新年祭。

 一年の終わりの日だ。

 前の世界の年越しイベントの様なものらしい。

 この一年の労いと、来年がまたいい年でありますようにと。


 領全体でお祭りだ。

 セレンディア家は、毎年屋敷を解放し、訪れた領民に贅沢な料理を振舞う。

 そして、屋敷の前の広場に華やかな装飾を施す。


 いつもいる使用人たちだけではもちろん手が足りない。

 この日に限っては、朝からセレンディア家に雇われた人たちが非常に多く出入りしている。


 世界が変わっても、一年が変わるというのは、やはりめでたいことらしい。


「余裕があったら、屋敷の前の広場の様子も見に行ってくれないか?」


「朝から頑張っていらっしゃいます、エマ様とコレット様がご心配なのですね。かしこまりました」


「ち、ちがうぞ!広間は新年祭で、一番人が集まるところだ!ちゃんと進んでいるかをだな…………」


「そうでしたか。では、進展の確認、その#ついでに__・__#お二人の様子も見てまいります」


「むむむ…………頼んだぞ、ルディア」


 ルディアは微笑みながらお辞儀をし、部屋を後にした。


「お父様も朝からずっと働きっぱなしです。少しは休まれてはどうですか?」


「何を言っているエレナ。領民に恩返しができるこの日に頑張らなくてどうする!!」


 それを見て、小さくため息をつくエレナ。

 まぁこれは毎年のことなんだろう。


「それでお父様。もう一度聞きますが、私たちの事は何で呼んだんですか?」


 そのことを思い出し、一度手を止めこちらを向くハロルド。


「ああ、そうだったな。二人には、町に出て周りの様子を見てきて欲しい」


 …………げ。

 エレナと二人でか?


「ちょ、ちょっと待ってくださいお父様!!なんでこいつと二人なんですか?!」


 ほら、始まったぞ。

 絶対に、しかもあからさまに文句を言うと思った。


「アレンはここに来て初めての新年祭だ。少しは町の雰囲気を見て回るのもいいだろう」


「まぁ…………それもそうだが。それなら俺一人で十分だと思う」


 そう言うと、隣のエレナは何故か俺を睨んでいる。

 先に嫌だと言ったのはそっちだろ?


「ただの散歩じゃないぞ?町で準備してくれてる人たちの中に、必ず困ってる人たちがいるはずだ。俺はここの準備で忙しいから、そういう人たちの声を聞いてきて欲しい。必要があれば、こちらから人手も出そう」


 そういう事か。

 でも、だからといってなぜエレナと俺の組み合わせになるんだよ。

 

「なら!!私一人で行ってきます!!」


「…………だ、そうです」


 やれやれといった具合で、ため息をつくハロルド。


「お前たち……最近仲良くなってきたんじゃなかったのか?」


「べ、別に仲良くなんかなってません!!」


 確かに、魔術を習うことになってから、一緒にいる時間は増えたと思う。

 結局魔術が使えないってなっても、何故かくっついてきて無駄口を叩いてくるようになったし。

 

 だがそれは、エレナにとっていいストレス発散の相手が見つかった、その程度の話だろう。

 なんかいつも馬鹿にしてくるし。


「んー?そうなのかー?昨日、コレットに何か聞いてたようだが」


 その言葉を聞いて、エレナが一瞬ビクっとする。


「…………何のことでしょうか、お父様」


「言っていいのか?新年祭の時、アレンはひーーーー」


「あーーあーーあーー!!わかりました!!二人で行きます、行けばいいんでしょ!!」


 エレナが突然騒ぎ出した。


「…………お姉さま…………許さないわ」


 そう言うと、すぐにエレナはくるりと向きを変え、部屋の外に出て行ってしまった。


「ーーーーあの。いったい何なんだ?」


「はははっ。エレナはいつもアレンに、憎まれ口を言うが。あの#娘__こ__#なりに、心を開いてきているのだろう」


「そうなのか?まぁ最初と比べると、話しやすくなった気はするが」


「あの娘は、魔術の才に恵まれた。勉学にしても鍛錬にしても、小さな頃から自分より年上の者たちとすることがほとんどだった。それ故に、あの娘には友達というのがあまりいなくてな」


 なるほど。

 天才ならではの、苦悩というやつなのか。


「だが、アレンは歳も近い。今では友達のようなものなのだろう。君がきてから、エレナも明るくなった。少し生意気なところはあるかもしれないが、これからもあの娘を頼むよ」


 その時のハロルドの顔は、完全に父親の顔だった。

 

「まぁ…………了解した。ところで、昨日何か言ってたみたいですけど、なんて言ってたんだ?」


「ん?それは本人に聞いてくれ」


 そう言うと、ハロルドはにやにやしながら作業に戻った。

 

 俺は軽く会釈をし、部屋をでる。

 エレナを追いかけようとするが…………その必要はなかった。

 彼女は部屋の扉の横に、腕組みをして立っていたからだ。


「まったく…………。お姉さまといい、お父様といい…………。余計なことを」


 あ……うん。

 明らかにイライラしてるエレナ。


「あの……何してんだ?」


「…………忘れなさい」


「え?」


「忘れなさいって言ったの!!今、お父様の言ってたこと全部!!」


 なるほど。

 ここで耳を澄ませて、立ち聞きしてたのか。


「わかった。お嬢様に友達がいない事なんて忘れますよ」


 キッっとエレナに睨まれる。

 さすがに悪戯が過ぎただろうか。


「冗談だ冗談。俺も友達なんていないから。お嬢様と一緒だ」


「そうね…………。いや、そうじゃないわ!!あんたと一緒にしないでくれる?!」


「ははっ。ところで昨日なんて言ってたんだ?」


「うるさい、うるさい!!早く行くわよ!!」


 早歩きで行ってしまうエレナ。


「はいはい」


 …………まったく。

 本当世話の焼けるお嬢様だ。


 そうして、俺はエレナの後ろを付いていくのであった。

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