第4話「談話」

 今日はコレットが他の貴族の家に行く為、その付き添いとして一緒に出掛けていた。

 この世界にも四季があるらしい。

 今は春のようだ。


「アレンさん、今日は付き添いどうもありがとうございました」


「いえ……何も役に立っていないが」


 馬車から降り、コレットの荷物を持つ。

 夕日に照らされ、赤く染まった屋敷に向かい歩き出す。


 使用人は建前といっても、出来ることはする方向性だ。

 とはいっても、ハロルドにはエレナとコレットの面倒をみてやってくれと言われている。

 と、言う訳で俺の仕事は、エレナとコレットの雑務ということらしい。


「そんなことないですよ?私だって、他の貴族の方に顔を見せるのは緊張します。知っている人が一緒にいてくださると安心します」


「そういうものだろうか?」


「そういうものです」


 ふふっと微笑みかけるコレット。


「疲れたでしょう?少し談話室でお茶でも飲んでゆっくりしましょう」


「いや、俺は部屋に戻って夕食まで休もうかと」


 ただでさえ気疲れしたんだ。

 今日の仕事はしたんだから、これ以上無駄に疲れるのは勘弁して欲しい。

 そう思ったのだが。


「んーそうですかー。でも、どうしましょう。別な日にアレンさんに頼もうと思ってたことを相談して日程合わせとかしたかったんですが」


 …………うぅ。

 それを言われたら断りずらい。

 一応俺の仕事ということなのだから。


 というか、仕事の話ならゆっくりという事ではないのでは?


「わ……かった。そういうことなら」


「そうですか!ありがとうございます!でも、アレンさんと普通にお話もしたいので。それで、お仕事の話忘れちゃっても仕方ありませんね!」


 ニコニコしながら、談話室に向かうコレット。


 やられた。

 なんかこういう押し切られ方、前にもされた経験があるぞ?


 談話室に入り、コレットと向かい合って椅子に座る。

 少し経つと、メイドが中に入ってきた。


「おかえりなさいませ、お嬢様。紅茶をお持ちいたしました」


「どうもありがとう。夕食まで少しアレンさんとゆっくりさせてもらいますね」


「はい、畏まりました」


 そういうと一礼し、部屋の外にメイドは出て行った。


 この家でメイドはルディアだけではなく、何人も働いている。

 執事もいて、使用人は何人もいるようだ。

 ルディアはメイド長という立場らしい。


 全員ではないと思うが、他の使用人たちの前で一応紹介された。

 一人一人名前を言われたが、そんなの当然覚えちゃいない。


 コレットと一緒に、注がれた紅茶を口に運ぶ。

 やはり良い葉を使っているのだろうか?

 紅茶など全然詳しくないのだが、知らない俺でも美味しいと思う。


「アレンさん、ここでの生活には慣れてきましたか?」


「ええまぁ、少しは」


「記憶の方は…………」


「まだなにも」


「そうですか」


 その返答にコレットは悲しそうな顔をする。


「でもそのうちきっと思い出せますよ!焦らずゆっくり待ちましょ!」


 場を和ませるためだろう。

 コレットが無理に明るく言ってくれたのは、俺でも分かる。


「あ!そうだ、アレンさん。日常の事でもなんでも、聞きたいこととかありますか?私が答えられることでしたら、教えて差し上げれますよ」


 聞きたいことか。

 それなら山ほどあるのだが…………。


 情報を得るいい機会だ。

 あまり不自然にならないように、聞いてみるのがいいだろう。


「何から聞けばいいのやらと言ったところだが……。この領と周りの地理について少し聞いておきたい。そう言ったことも何も覚えていないから」


「はい。ここは以前にも言った通り、セレンディア領といいます。北西に二日程馬車で行くとアイゼン王国があり、私達の領もそこに属しています」


 この領に来て一週間程度。

 少し町を案内してもらったが、元の世界で言うと、昔のヨーロッパの様な街並みだ。

 分かってはいたが、機械等の近代的なものは何もなかったが、風情がいいのは確かだ。


「属してるってことは、そのアイゼン王国ってところは結構でかいのか?」


「はい。大きな国はいくつかありますが、人間ヒューマンの中でアイゼン王国が一番大きいです」


 人間ヒューマンの中?

 あ!

 そういえば、最初も魔族がどうたらとか言ってたな。


人間ヒューマン以外にも、種族はいるのか?」


 その質問にコレットは少し驚いた様子をする。


「これは…………なかなか重症のようですね」


 余程当たり前のことだったのだろうか。

 確かに、前の世界でも外国人っているんですかって言われたら、記憶がないと言われても驚くかもしれない。


「申し訳ない」


「いえいえ。お気になさらないでください。私達、人間ヒューマン以外には、魔族・亜人が存在してます。さすがに本物の魔族は私も見たことがありませんが」


 やはりそうなのか。

 亜人っていうのは、人間と動物がくっついたみたいで少し想像ができるのだが。

 魔族はどうなんだろうか。

 でかかったり、禍々しい外見だったりするのだろうか?


「見たことがないというと、魔族は珍しいのか?」


「いいえ。違います。私達、人間ヒューマンと亜人は、魔族と戦争しているからです。何百年も前から。。そう呼んでおります」


 戦争か。

 異世界にありそうな話だな。

 となると、心配なことが一つある。


「ここは安全なのだろうか?」


「そこは心配いらないかと思います。ここは#人間__ヒューマン__#の領土の中でも、かなり南に位置しています。魔族の住んでいる所は、#人間__ヒューマン__#の領土からもっともっと北ですから。重要視されるようと場所でもないので、領ができて百年以上経つそうですが、責められたことは一度もないそうですよ」


 それならいいのだが。


「何かあれば、王都からすぐに精鋭の方たちが駆けつけてくれると思います」


 そうなのか。

 異世界にきて、なにも分からず戦争に巻き込まれて死ぬなんて、本当にごめんだからな。


「亜人とは仲がいいのか?」


「はい。亜人の領土は東側に位置しますが、人間ヒューマン側の領土で暮らしている人も少なくありません。ルディアもエルフとのハーフなので、亜人種は結構身近にいますよ」


 ということは、亜人はあまり警戒しなくても大丈夫そうだな。


 あと聞きたいことと言えば…………。

 そうだ。

 大事なことを忘れるとこだった。


「そういえば、最初にエマさんが、癒しの光ヒーリングというのを使っていた。魔術についても、少し聞いてみたい」


 そう言うと、エマは少し苦笑いをする。


「すいません。魔術に関しては私もあまり詳しくなくて。適当な事を言うと、後でエレナに馬鹿にされてしまいそうなので、その件についてはエレナに聞いてみるといいかもしれません」


 …………うぅ。

 あの妹にか。


「エレナは私よりも3歳年下ですが、魔術はかなり優秀です。あの歳で上級魔術師ですからね。私からも、後でお願いしておきますよ」


「感謝する」


 エリートというやつか。

 まぁ詳しい人に教えてもらえるなら、それはそれでいいのだが。

 敵意むき出しにして、教えてくれなそうな気もする。




 ドアがノックされ、先程のメイドが再び部屋に入ってきた。


「お嬢様、そろそろお夕食のお時間でございます」


「ありがとう。アレンさんも連れて向かいますわ」


「畏まりました」


「また聞きたいことがあったら、いつでも言ってください。力になれることなら、協力致しますわ」




 色々話を聞けて良かったのだが…………。

 これから覚えなくてはいけないことが山ほどあると思うと、若干頭が痛くなった。


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