第十三話


「なんで、雨音はキスなんてしてきたんだ……」

 現在の時刻は五時ちょっと前。俺は昨日の事で頭を悩ませていた。もちろん全く眠れていない。目を閉じるとあの時の光景がフラッシュバックして胸の高鳴りが収まらなくなるからだ。

「ただのスキンシップ……だよな?」

 自分に言い聞かせるように独り言を呟く俺。

 実際、その可能性はある。あれだけ普段から抱きついたりしてるわけだし、キスとかしてきてもおかしく……いやいや、流石におかしいだろう。今までスキンシップでキスされた事は一度もない。じゃあなんで俺にキスしてきたのか、実は雨音は俺の事……いやいや、そんなのありえないだろう。兄として好きなのはわかるが異性として好きではないはずだ。

 雨音の過度すぎるスキンシップに頭を悩ませていると急に部屋の扉が開いた。

 まずい、雨音が部屋に入ってくる。俺は起きてるのがバレないように白い壁の方を向き、寝たふりをし始めた。

 あれ?何もまずいところなんてなかったんじゃ……普通に「おはよう雨音」でよかったじゃないかくっそ、やらかした。

 今さら起き上がるのも変だし、いつも通り素直に抱きつかれよう。

 というか、雨音が俺の部屋に入ってきたって事は、昨日の事なんて全く意識してないって事だよな?いつもスキンシップが激しめな雨音でも恋愛に関してはラブコメ読んで少し顔が赤くなるくらいには初心な所があるし、あんな事をした手前最低でも今日明日明後日は俺と顔を合わせれないはずだ。

「……」

「……」

 何故か数秒の間があったが、しっかり(?)雨音は背中に抱きついてきた。その瞬間、俺の心臓がドクリと高鳴った。

 なんだこれ、今まで抱きつかれたくらいでこんなに心臓が鳴った事なんてなかったのに。

 ドクン、ドクン、ドクンと心臓の音が聞こえる。

 これ、下手したら起きてるのが雨音にバレるんじゃ……。

 バレるのはまずい。こんなのがバレたら一生からかわれる。

 とりあえず、冷静になるために素数を数えよう。1、3、5、7……

 俺は、自分を落ち着かせるのに精一杯で、もう一つの心臓の音には全く気が付かなかった。


※※※


「全く寝れなかった……」

 現在の時刻はちょうど五時を回ったところで、いつもなら着替えて、おにいちゃんのベッドに直行している時間なんだけど……。

「うぅぅ……顔合わせるのすんごい恥ずかしい」

 理由はもちろん、昨日おにいちゃんの頬にキスをしてしまったせい。おにいちゃんはすぐ散歩に行っちゃったし、わたしもおにいちゃんに会って話せる気がしなかったからその後は一切顔を合わせていない。

「おにいちゃんの事が好きって気持ちを抑えきれなくてあんな事しちゃうなんて……ほんとにもう」

 わたしのバカ!!未来のわたしの事もちゃんと考えて行動してよね!!とか叫ぼうとしたけど、この家の壁は少し薄い事を思い出してその言葉をグッと飲み込んだ。

「とりあえず、おにいちゃんのベッドに潜りに行こ、ここで行かなくて変に意識してるって思われるのなんか恥ずかしいし」

 おにいちゃんパワーが無くなったら大変だしね。仕方ないよね。うんうん。

 水色のパジャマからいつもの服(おにいちゃんのぶかぶか白パーカーにホットパンツね)に着替えて、いざ、おにいちゃんの部屋へ。

 おにいちゃんもわたしみたいにドキドキして寝れてなかったら嬉しいな、その時はちゃんとおにいちゃんの顔見て話せるかな。とか考えながら、少しドキドキしつつ、扉を開けた。

「……」

 ……おにいちゃんは壁の方を向いて寝ていた。

 わたしのドキドキを返せバカ兄貴。絶対いつか今のわたし以上にドキドキさせてやるんだから!!心の中で叫び、固く決意する。ふふふ、あのおにいちゃんの顔を真っ赤に染め上げるのを想像すると今から楽しみで仕方ない。

 とまぁそれは置いておいてとりあえず今はおにいちゃんのベッドに潜りこもう。

 いつも通りおにいちゃんの背中に抱きつく。すると、今まで以上の多幸感とドキドキ感の波が襲ってきた。

 今までおにいちゃんに抱きついてドキドキした事なんてなかったしこんな恥ずかしさもなかったのに、うぅぅぅぅぅぅ。しかも、ものすごく顔が熱い。絶対顔真っ赤だよわたし。おにいちゃんを落としきる前にわたしが恥ずかしさで死んじゃうよぉ。

 心臓がバクバクと鳴っていてすごくうるさい。こんなにうるさいとおにいちゃんにも聞こえちゃうんじゃないかと思うとさらにドキドキする。このままだと心臓が持ちそうにない。

 今すぐにでもおにいちゃんから離れて、部屋に戻ってこの恥ずかしさから逃れたいけど、この多幸感をもっと味わいたいし、何より昨日のキスの事意識してるって思われたくない。でもこのままだとやっぱり恥ずかしすぎる。

 おにいちゃんの妹で、彼女に成ろうとしてる女の子としてとるべき行動はもちろんただ一つ。

 この恥ずかしさにいち早く慣れること!!

 恋愛は今以上にドキドキする事ばかりなんだしおにいちゃんを落とすためにも攻めなきゃなんだから……!!

 何よりおにいちゃんパワーを摂取するたびにこんなドキドキしてたらいつか死んじゃうしね。

 この時のわたしは一日どころか一生ドキドキし続けて、恥ずかしさに慣れることはないとは思いもよらないのであった。

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この兄妹は自分がシスコン(ブラコン)だということにまだ気づいてない 檸檬茶 @shaulemon

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