「双子の怨」

低迷アクション

第1話



 「アイツとヨリを戻したよ」


このニキビ面の何処がいいのか?知人の“J”は“最低”を体現する男だ。これまで、幾人もの女性と付き合い、全てに酷い仕打ちをしてきた。


暴行罪で訴えられた事もある。しかし、奴と付き合う女は以前として、いる。


コイツが言う“アイツ”とは、2ヵ月前に、Jが別れた女だ。酒で酔った奴に、

強く殴られ、病院に運ばれた。


「顔も綺麗でよ。跡も残ってない。やっぱり、あの泣き黒子が似合う顔がイイ。

まぁ、ツイてたわ…ホント」


自分がした事を他人事のように話せるJに、罪の意識はない。

不快そうなこちらの顔を気にもせず、話は続く。


「やっぱ、女ってのは、あーゆうおしとやかさが大事だよな。男に黙って

ついてくる。これこそ、社会の在り方の基礎だよ。ウン!」


昨今の男女平等の概念と大きく外れた言動だ。


「朝起きたら、飯は作ってある。俺が出かける時は(無職のJは、パチンコしか行く所がない)そっと金も出してくれる。少し線香くせぇけどさ。


俺が“悪いな”って言ったら、返事は決まって“いいのよ”だ。言う事は何でも聞く。

全く、出来た女だ」


そう言って、笑う彼に嫌気がさし、話を中断し、別れた。


2日後にJから連絡が来る。


“俺の彼女オカしい”


オカしいのは、お前だろうが?と言う言葉を飲み込み、既読をつけ、次の文章を待つ。


“気づいたけど、アイツ、いつも、俺の家にいる。

普段、気配はないから、どっかに隠れてる…俺が必要に思うと、すぐ現れて、


“いいのよ”と言って、なんでもやってくれる。だけど、気が付いたら、いなくなってる。

それがずっと続いてるんだ。絶対ヤバいだろ?“


聞いてる途中から可笑しくなって吹き出す。よくはわからないが、ざまあみろだ。

多分、これは彼女なりの仕返しなのだろう。Jにとっては良い薬だ。返事は返さない。

奴に不安を抱かせたままにした方がいい。


そんなJの事で共通の友人と話をする機会があった。


「多分、そりゃ妹だ…双子の」


「双子の?」


「ああ、俺はアイツの彼女が搬送された病院に行った。彼女死んだよ。その時に、妹に会った。姉と瓜二つだが、顔の黒子の位置が微妙に違う。最も、アイツにはわからないだろう。

女の顔なんて、ロクに見てないからな」


友人の言葉で合点がいく。姉を想う彼女の静かな復讐を止めるつもりはない。


後日、その友人から連絡があった。


「妹も死んでた。姉さんの後を追ってすぐに…」


Jの家には、今も彼女が来ている…(終)

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